“逃げ恥”のことわざが持つ本当の意味

じつは日本人にとって、もっとハンガリーを身近に感じられることがあります。

“逃げるは恥だが役に立つ”という言葉です。

もともとはハンガリーのことわざで、「勝負すべきところでないところを逃げたり、退いたりするのは恥のようだが長い目で見れば得策」ということを伝えています。日本の漫画のタイトルになり、星野源さん、新垣結衣さんのドラマが大ヒットしたことで有名になりました。

“逃げるは恥だが役に立つ”からもわかるように、勝負ごとに関するこだわりが非常に強い国民性であると言えます。そして、脈々と受け継がれてきた彼らの特徴を説明するのに欠かせないのが、現代のハンガリー社会の根底にある強力な「不公平感」を理解することです。

競う人たち
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国家を“解体”された嘆きは今も続いている

根底にあるのは、1920年のトリアノン条約です。

この条約は、1世紀を経てもなお最も影響を与え続けています。

第一次世界大戦を終結させる協定の一つであるトリアノン条約は、当時のハンガリー王国を事実上解体しました。国土の3分の2以上が6つの異なる国に割譲され、同時に人口の半分以上を失ったのです。

現在のハンガリーの人口は980万人、国土面積は日本の約4分の1です。けれど、かつてはもっと大きな国だったわけです。割譲された国には、現在のスロヴァキアやクロアチアが含まれています。

トリアノン条約の余波は、しばしば「トリアノン症候群」と呼ばれ、重くのしかかっています。極右のオルバーン政権が条約の調印日を国の記念日に変えたことも、大きな出来事でした。嘆きがちな傾向は、ハンガリーの文化と国民的アイデンティティに新しいものではありません。

マジャール人(ハンガリー人)の詩人ペテーフィ・シャーンドルはこう書いています。

「私たちは、地球上のすべての人々の中で最も見捨てられている」