とはいえ欧州委員会は、気候変動対策に関すると加盟国全体の「底上げ」を重視する傾向が強く、低所得国への配慮を軽視している。確かに低所得国に配慮して基準を緩めるなどすれば、高所得国から生産拠点が移転するなどの別の問題が生じる懸念はある。一方で、相応の財源を移転しなければ、低所得国の気候変動対策など進みようがない。

いわゆる「EU復興基金」による財政支援が、そうした財源の移転に相当するという立場をフォンデアライエン欧州委員長やEU首脳陣はとるかもしれない。しかしこの制度はインフラの建設支援に費やされる性格が強いものであるし、気候変動対策の強化によって生じる南欧諸国や中東欧諸国の家計の負担増を軽減するものではない。

決定的に欠かけている“国民負担”の大問題

ハンガリーとポーランドを除く中東欧諸国は、基本的には親EUだ。南欧諸国でも反EU政党が一定の勢力を持つが、EUへの信頼回復も顕著である。環境政党への支持の高まりは汎欧州的な流れであり、気候変動対策の充実は時代の要請だ。とはいえ欧州委員会が出方を間違えれば、南欧や中東欧でEUへの信頼が失われることになる。

欧州委員会
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Teka77)

EVシフトに関しても同様だが、欧州委員会は気候変動対策に関して、域内の国の所得格差や発展段階に対する配慮を欠いていると言わざるを得ない。域内の国々にですらそうなのだから、域外の国々に対してはなおさらだ。米中との覇権争いを制することに躍起な欧州委員会だが、そうした態度では内外でEUに対する信頼を失うことにつながる。

日本でも7月26日、菅政権が温室効果ガスの排出削減に取り組む新たな「地球温暖化対策計画」の案を公表、家計の温室効果ガスの2030年までの削減率を対2013年度比で従来の39%から66%に引き上げる野心的な目標を掲げた。新築住宅の省エネ化(LED照明や太陽光パネルの設置など)や電動車の普及などを骨子としている。

当然、日本でも家計が温室効果ガスの削減のコストを追うことになる。政府は各種の補助金を充実させることでそうした負担は軽減できると主張するだろうが、結局のところそれは国債による資金調達に基づくため、その返済の負担は将来世代に押し付けられることになる。気候変動対策は重要だが、それで将来世代の負担が増えて良いわけではない。

菅政権がEUを意識していることは確かだろう。とはいえ数値目標にばかり囚われると、EUの気候変動対策が持つ問題点を見誤ることになる。日本だけが「はしごを外される」ことがないように、より戦略的な観点から日本は米国や中国、アジア諸国に接近し、気候変動対策のあり方を練り直す必要があるのではないだろうか。

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