気候変動対策“主導権争い”の大きすぎる代償
周知のとおり、欧州連合(EU)は気候変動対策で国際的な主導権を握ろうと躍起になっている。EUの執行部局である欧州委員会は7月14日、いわゆる「パリ協定」の達成を実現するための包括的な法案を発表したが、その際に企業だけではなく家計にも温室効果ガス(GHG)の排出抑制に関するコスト負担を求める姿勢を鮮明にした。
米中との覇権争いを念頭に、欧州委員会は気候変動対策に関して強気の姿勢を堅持する。とはいえ、加盟国間には大きな温度差があり、所得水準が高い西欧諸国や北欧諸国は前向きだが、所得水準が低い南欧諸国や中東欧諸国は慎重な姿勢を崩さない。こうした気候変動対策をめぐる温度差が、EU内の新たな対立につながる恐れが出てきている。
中東欧の有力国ポーランドのシンクタンク「ポーランド経済研究所」の代表ピオトル・アラク氏は7月9日、EUの政策を議論するための言論プラットフォームであるサイト「ユーラクティブ」(Euractiv)に寄稿し、欧州委員会が目指す気候変動対策を推進すれば、EU域内の貧困世帯にもかなり重い金銭的負担が生じる可能性を指摘した。
同研究所の試算によると、EU域内の家計部門が2030年までに1990年対比で二酸化炭素(CO2)を40%削減しようとする場合、2040年までに総額で1兆ユーロ(約130兆円)以上の負担が発生することになる。一世帯当たりの負担額に直すと、移動手段に関わるコストだけで最低でも年平均で44%(373ユーロ)増加するようだ。
それだけではない。建物に関わるコスト負担が同じく50%(429ユーロ)増加するため、EUの家計部門が負担する気候変動対策のコストは一世帯当たり年平均で800ユーロとなる。しかもこれは最低額であるため、多くの世帯はさらにそれ以上の負担額を強いられる。言い換えれば、低所得者層でも800ユーロの負担を求められるわけだ。