借り入れしやすい心理が家計の債務残高を膨らませている

また、アジア通貨危機後の韓国経済は半導体や薄型テレビなどの大量生産体制を確立することによって早期の回復を遂げた。それは、韓国の社会心理に、景気が悪化しても何とかなるという見方を与えただろう。

それに加えて、アジア通貨危機以降の世界経済では、過去に比べ物価と金利が上昇しづらい状況が続いた(グレートモデレーション)。金利が上がりづらい状況が続くと、借り入れに対する抵抗感、不安は低下する。

以上を総合的に考えると、アジア通貨危機後の韓国ではクレジットカードの利用増加によって借り入れに対する抵抗感が下がった。その上に、輸出主導での迅速な景気回復と、世界的な低金利環境の継続が重なるようにして、人々が借り入れへの抵抗感を弱め、先行きへの楽観が広がる中で、借り入れを増やしつつ生活することを当然視する心理が高まったといえる。

2019年4月の明洞商業地区の通りの夜景
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その一方で、ノンバンクは利ざやの確保を狙って個人向けの信用供与を重視し、家計の債務残高がGDP規模を上回るまでに膨らんだ。

「借金が収入を上回る状況」に歯止めはかかるか

韓国金融委員会の発表によれば、2021年5月の家計の債務延滞率(元利金の支払いが1カ月以上遅れた債務の割合)は0.20%だ。2016年以降、家計の延滞率はおおむね0.2~0.3%で推移している。今すぐに家計の返済能力への懸念が高まり、不良債権が増加する状況ではないだろう。

今後、韓国の家計債務は増加する可能性がある。そう考える一つの要因として、フィンテックが借り入れをより身近にしているからだ。例えば、カカオバンクは、株式口座の開設申請サービスや、ノンバンクとの連携による貸し出しサービスの強化によって成長してきた。株式投資などのために借り入れを行う人の存在を考えると、韓国家計にとってフィンテックは借り入れのサポート手段と化している側面があるようだ。不動産の取得や生活などのために借り入れを重視する個人も多いと聞く。

しかし、家計の債務残高がGDP規模を上回っているということは、借金が収入を上回っていることにほかならない。その状況は持続可能ではない。いずれ、韓国の家計はバランスシート調整を迫られるだろう。その要因として、短期的には韓国銀行の利上げや米国のFRBによる資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)の可能性がある。現時点で、多くの市場参加者は早ければ年末、あるいは来年の初めにFRBがテーパリングを開始すると考えている。