「4%の運用収益を稼ぎ、取り崩しゼロ」ですむのは2年に一度だけ?

それでもなんとか、幸運・強運の力も借りながら1億円の準備ができたとします。

お金フラットコンセプトベクトルイラストに横たわっている成功した男
写真=iStock.com/Nataliia Nesterenko
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これ以降は年4%のリターンさえ毎年確保できれば、理論上は、1億円は減らさずに何十年でも暮らしていくことがでます。年4%というのには理由があります。25年分の年収を確保済みであれば、その4%の収益がまさに1年分の生活コストと同じになるからです。

しかし、その年4%というリターンを生むのは簡単なことではありません。インデックス運用で国内外に分散投資をした場合の過去の実績をみると、年4%は不可能ではありません。ただし、資産のほぼ全額を投資に回す必要があります。

「せっかくFIREを実現したのだから、もう投資からは手を引きたい」と考えても、それは許されません。リタイア後も資産運用を継続することになります。「投資好き」の人はそれでもよいでしょうが、普通の人がそれを望むかは疑問です。

かといって期待リターンを下回れば、たちまち取り崩しが始まります。例えば「投資割合50%:預金50%」とし、投資部分で年4%を稼いだとしても、全体としては年2%ですから(年0.002%の定期預金金利はここではもう考慮しない)、毎年200万円を取り崩すことになります。

FIRE後、1億円の資産を運用利回り2%(固定)で25年間過ごした資産の推移
FIRE後、1億円の資産を運用利回り2%(固定)で25年間過ごした資産の推移

25年経つころには資産は約3600万円まで減少します(これで65歳以降をやりくりする、と考えれば悪くない取り崩しともいえますが)。

また、平均的な期待リターンが年4%といっても、短期的な市場の下落は避けようがありません。マイナス運用で終わった年度は取り崩しをすることになります。

インデックス運用をベースとした分散投資例として、国の年金運用の実績を振り返ってみます。2001年度から2020年度までのあいだ、7回マイナス運用となっていますし、年4%を下回っている年度を加えると9回は未達ということになります(それでも、平均利回りは年3.87%で悪いものではありません)。

仮に1億円のFIRE資金があって、GPIF(公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人)と同じ利回りで各年度(2001~2020年度)の収益をあげ、そこから生活費年400万円を引くという試算をしてみると、一度も1億円を上回らないばかりか、2020年度末は8000万円強まで下がっています(ちなみに2019年度末はコロナショックの影響で6750万円まで下がっている)。

1億円の資産でFIRE生活に入り、以後20年間の投資の結果がGPIFと同じだった場合の資産の残額(生活費は年400万円)
1億円の資産でFIRE生活に入り、以後20年間の投資の結果がGPIFと同じだった場合の資産の残額(生活費は年400万円)

取り崩しを前提とし、新規積立が行われない資産運用というのは明るい未来を約束するほど簡単なものではないのです。2020年度のような高利回りをFIRE直後に2、3回享受するような幸運がなければ、資産の減少は避けられないでしょう。

また、インフレと手数料を考慮したうえでの「実質4%」を本来考慮するべきであることも、FIRE後の資産運用を難しいものとします。額面が減っていなくても、モノの値段が上がればそれは実質資産価値の減少であるからです。これから20年後もデフレが続くという確証を持ってリタイアできるでしょうか。