人気が取れる「反日」ではなく、日韓関係の正論を貫けるか
記者会見でも「イデオロギー偏向的な竹槍歌を歌っているうちにここまで来た」と尹氏は文政権の対日外交を強く批判しており古い価値観からの脱却を訴えている。「竹槍歌」は朝鮮王朝末期の抗日反乱を題材にした歌で、曺国が反日を鼓舞するときに引用したことでも有名になった歌だ。
「日韓関係は修復不可能なところまで悪化している。外交は現実主義に立脚すべきだ。元徴用工問題や慰安婦問題、安全保障協力、貿易対立などの懸案を全部一緒に1つのテーブルの上に置いて議論するグランドバーゲン(包括合意)方式でアプローチする必要がある」
とも尹錫悦氏は語る。文政権では「不可逆的解決」をうたった2015年日韓合意(慰安婦合意)を骨抜きにするなど、国際常識や正論を無視した言動で日韓関係を悪化させてきただけに、こうした指摘は正鵠を得ているという声も少なくない。尹氏は保守系候補として、日米との安全保障協力を深め中国や北朝鮮を牽制する立場を取ることも示唆している。
韓国政治家にとって「反日」は、手軽な人気取り策として知られている。支持率が伸び悩むなか、尹錫悦氏は今後も日韓関係において正論を貫けるのか。注目すべきポイントだろう。
少年工から弁護士に立身出世した李在明京畿道知事
一方で「韓国のトランプ」と評されて、過激な言動で存在感を高めているのが与党候補の李在明氏(56)だ。
李在明氏は弁護士を経て京畿道城南市の第19、20代市長(2010年7月~2018年3月)を歴任、2018年7月から京畿道の第35代知事を務めた人物。政治家としての特徴はその発言力にある。
「朴槿恵であれば親子の物語であり、文在寅であれば盧武鉉(ノ・ムヒョン)との物語が注目されたように、韓国の大統領選は『個人の物語』が重要視されると言われています。李在明氏はその点もとても巧みで、出馬表明に際し『貧しい環境で危機をチャンスに変えてきた』と強調したように、自らが少年工から苦労して弁護士になり立身出世を遂げた物語を常に語ります。国民の共感を得ることができる政治家と言えるでしょう。
2018年に不倫疑惑が浮上した際に、噂された女優から『身体の特定の部位にホクロがある』と暴露され、李在明氏が大学病院で身体検査を受け潔白を証明しようとしたことがありました。先の7月6日、与党大統領選候補によるテレビ討論会で対立候補から再びこの話を蒸し返されときに、李在明氏は『どうしろというんだ。ここでズボンを下ろしましょうか?』と切り返して大騒動になりました。トランプと同じように過激だけど愛嬌もある点も人気を集める要因になっています」(ソウル特派員)
一方で対日政策は過激路線。東京五輪組織委員会の竹島表記論議に対して「歴史的記録も残すことを兼ねて東京オリンピックボイコットを検討すべきだ」と述べたり、「(大韓民国の建国は)親日勢力と米占領軍の合作」と主張するなど、歯に衣着せぬ発言と“反日色”の強いスタンスを一つの売りにしている。