貸与奨学金すら利用できないケースも

こうした世帯では、小中学校での児童手当を計画的に貯蓄し、高校や大学・専修学校等の進学費用に充てるケースも少なくありません。奨学金利用ができない高所得者層は、そうしなければ高額な大学・専修学校の卒業までの費用を工面できないからです。

空を見上げる学生
写真=iStock.com/hanapon1002
※写真はイメージです

2022年度から突然、児童手当が廃止されてしまうと、現時点で児童手当が支給されている中学生までの子どもたちの中には、資金不足のために希望する学校に進学できない層が出てくるリスクを高めます。私は大学の教員ですから、実際に大学生の経済的相談にも乗っています。中には、保護者が高所得であるために、日本学生支援機構の貸与奨学金も利用できず、やむを得ず民間金融機関のローンを組んで授業料を払っている学生もいました。

末冨芳・桜井啓太『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)
末冨芳・桜井啓太『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)

一見、高所得に見える世帯でも、家族の介護や、ビジネスの運転資金のために家計に余裕がなかったり、家族が病気で治療に多額の医療費が必要だったり、経済的虐待があったりと、生活が苦しい家庭は少なくありません。親の所得で子ども・若者が受けられる支援に線引きをすれば、切り捨てられる子どもや若者がいるということなのです。

どうしても児童手当を削るのであれば、少なくとも教育に関するすべての支援制度の所得制限を撤廃してからにすべきです。具体的には、高校就学支援制度の授業料無償化の所得制限撤廃、高校生等奨学給付金と大学・専修学校の無償化の所得制限の大幅緩和、日本学生支援機構奨学金の貸与奨学金の所得制限撤廃です。これをしなければ、進学機会を失う若者が続出し、結果的にわが国の人的資本育成のマイナスになります。

もちろん、こんなことをいうまでもなく、親の所得によって子ども・若者への支援を「差別」することは、そもそも許されないというのが私の考えであることをもう一度強調し、本稿を閉じます。

※1 末冨芳,2020,「国際比較からみた日本の教育費―初等中等教育費を中心に―」国立人口問題・社会保障研究所『社会保障研究』第18号pp.301―312
※2 内閣府,2015,「税・社会保障等を通じた受益と負担について」p.5

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