今年2月、待機児童対策を目的として、世帯主の年収が1200万円以上の世帯の児童手当を廃止する「児童手当関連法改正案」が閣議決定された。日本大学文理学部の末冨芳教授は「待機児童対策のためのコストを子育て世帯へ転嫁するという発想に問題がある。子育て支援の予算全体を底上げするべきだ」という――。(前編/全2回)

※本稿は、末冨芳・桜井啓太『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

両親と手をつなぐ子ども
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改正案の4つのポイント

「子育て罰」は、労働政策や家族社会学の研究者によって指摘されてきた、子育てする親にあまりに厳しい状況を批判する概念です。日本の「子育て罰」がますます大変なことになる、と私が直感したのは、2020年11月に「児童手当の特例給付、廃止検討 待機児童解消の財源に」(※1)という報道を目にしたときでした。その後、2021年2月2日に以下の方針が閣議決定されました。

政府は2日の閣議で、一部の高所得世帯の児童手当を廃止する児童手当関連法改正案を決定した。2022年10月支給分から対象を絞り、世帯主の年収が1200万円以上の場合は支給をやめる。今国会に提出し、成立を目指す(2021年2月2日 日本経済新聞)(※2)

この方針のポイントを簡単にまとめると、以下のようになります。

①中学生以下の子どもを対象とした児童手当のうち、高所得者向けの「特例給付」について、世帯主の年収が1200万円以上の世帯は廃止。
②高所得層の児童手当廃止は2022年10月支給分から廃止され、約61万人の子どもがゼロ支援になる。
③高所得層への浮いた財源・年間370億円を、新たな保育所整備など待機児童対策に充当する。
④2022年度から2024年度までで14万人分の保育の受け皿を確保(1年で約4万6000人の待機児童解消財源)

これは、様々な問題のある政策です。まず、児童手当廃止の対象を世帯主の年収1200万円以上とすることで、共働き家庭と、専業主婦(夫)家庭との間の格差が生じます。またわずかな収入の差で、子どもが児童手当を受け取れるかどうかの差が生まれてしまいます。

そして、約61万人の子どもを児童手当支給対象から排除して、約14万人の子どもの保育の受け皿を確保するというのは、合理的な政策とは考えられません。約61万人の子どもたちから児童手当をなくし、親の負担を拡大するという家計への子育てコスト転嫁が発生します。