待機児童への財源確保のために子育て世帯が割を食う
そもそも、このことで親子が受けるダメージと、約14万人の子どもたちが保育園に入れる利益とは、同じ天秤にかけて考えてよい問題なのでしょうか。高所得層が子どもを産まなくなれば、少子化加速要因ともなります。児童手当廃止が家計や社会にもたらす負担(コスト)やデメリットと、待機児童解消の利益(ベネフィット)の計算は、自民党内や厚労省等で、きちんとなされたのでしょうか。
児童手当のシステム改修費だけで約289億円かかるとされていますが(※3)、これは約61万人の子どもから奪い取った児童手当の約1年分が吹っ飛ぶ計算です。坂本哲志少子化大臣は、「(改修は1回なので)長期的に見れば適切なもの」だと回答されているようですが、だとしたら、高所得層の親と子どもへの「子育て罰」の厳罰化ともいえる児童手当廃止をずっと続けるという、冷たく厳しい政治をしていることになります。
この児童手当廃止法案は2021年5月21日、ついに国会で可決されてしまいました。私も改善策を参議院内閣委員会で報告し、与野党の議員に賛同いただいたものの、菅政権の数の論理に屈し、政治による「子育て罰」を止めることはできませんでした。
そもそも、待機児童のための財源を、子育て世帯への現金給付を削って調整しようとする菅政権の発想自体が、子どもに冷たく厳しい「子育て罰」であると指摘せざるを得ない状況なのです。
年収2390万円のパワーカップルには年6万円の児童手当
図表1は、高所得世帯を3パターンのモデルにし、2022年10月以降に高所得子育て世帯の間に発生する不公平な状況をわかりやすく示したものです。なお、実際には我が家のように妻が世帯主(内閣府の説明資料(※4)では主たる生計維持者と表現されていますが、ここではわかりやすく世帯主という表記で統一します)、専業主夫世帯など、様々な世帯形態がありますが、表では最多ケースである夫世帯主モデルで整理しています。
一見してわかるのは、モデル1、モデル2の夫が高所得の専業主婦世帯には、夫のわずかな収入の違いで、子ども1人あたりの児童手当に差が生じることです。話をわかりやすくするために、やや極端なモデルを用いていますが、世帯主の年収が1195万円から1200万円になると、収入が5万円増える代わりに児童手当6万円を失います。
またモデル3の所得制限ギリギリの共働き夫婦で、それぞれが年収1195万円の場合には、世帯年収2390万円となりますが、児童手当は年6万円受け取れます。
モデル1とモデル3を比べると、年収が1190万円も高い高所得パワーカップルの方が、児童手当6万円を受け取れるという、とても不公平な仕組みです。