週刊文春は芸能人の「ゲス不倫」を何度も報じてきた。なぜ不倫ネタを取り上げるのか。前週刊文春編集局長の新谷学さんは「デジタルシフトを開始して、きれいごとを言っていては稼げないという実にシビアな現実を突きつけられた。デジタルの世界では、社会的インパクト、社会的意義と、実際の収益、読まれる数は相関しない」という――。

※本稿は、新谷学『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)の一部を再編集したものです。

インタビューに応じる前週刊文春編集局長、「文藝春秋」編集長の新谷学さん
撮影=門間新弥
インタビューに応じる前週刊文春編集局長、「文藝春秋」編集長の新谷学さん

「社会的意義が大きい=読まれる」ではない

デジタルシフトを開始してすぐに気がついたのは、この世界は非常に過酷で、苛烈な戦場だということだった。

デジタルではPVも有料会員数も瞬時に数値化され、その数値で収入が決まる。われわれはこの世界で、きれいごとを言っていては稼げないという実にシビアな現実を突きつけられたのだ。ここでは、デジタルでのビジネスとブランディングについて書いていく。

デジタルの世界では、社会的インパクト、社会的意義と、実際の収益、読まれる数は相関しない。

わかりやすい例を挙げれば、2016年に〈ベッキーさんの禁断愛〉と〈甘利明大臣の金銭授受疑惑〉を同時期にスクープしたが、デジタル上のPVだけを比べればベッキーさんの記事が10倍読まれた。僅差などではなく、桁がひとつ違う。

当時の甘利大臣のスクープは、贈収賄現場を完璧に押さえた週刊文春史上に残るものだ。現職の大臣を辞任に追い込んだきわめて社会的意義の大きいスクープだったが、デジタルでは、ベッキーさんの記事が10倍読まれた。つまり10倍稼いだということになる。

これが厳然たる事実だ。ジャーナリズムという大義よりもむき出しの欲望に人の心は動く。これがデジタルのリアリティだとまず認識しておく必要がある。新聞やテレビや雑誌など、ジャーナリズムの最前線にいる人々が直面しているのもこのやっかいな問題なのだ。

タイミングを見極め、アウトプット先も細かく使い分ける

では、どうすればデジタルで稼げるようになるのか。

紙の雑誌とデジタルを使い分け、時間差でスクープを放つことで拡散力が増す仕組みを作った。音声データや動画も記事と一緒にまとめて出すだけではなく、出すタイミングを見極めることで、より注目を集めることができる。

アウトプット先を使い分けることも必要だ。ヤフーとLINE、ドワンゴと組んだ週刊文春デジタルでは読者層が異なる。ヤフーは40代から60代の男性ビジネスマン中心、LINEは30代から50代の主婦、週刊文春デジタルは20代から30代のネット系男子というそれぞれの読者層に応じた記事を出す。数字を細かく分析すればするほど戦いは有利になり、収益も増える。

過去の記事が、収益を生むこともデジタルの特徴だ。沢尻エリカさんが2019年に薬物所持で逮捕された時、われわれは、家宅捜索のわずか3時間前にクラブで踊り明かす彼女の映像を撮っていた。

逮捕の一報を受けて、この動画と、7年前(2012年)のスクープ記事〈元夫・高城剛氏が語っていた薬物問題の“真相”〉とを文春オンラインにアップしたら、PVはぐんぐん伸び、関連記事を合わせて1億PVに達した。その結果、文春オンラインは初めて月間3億PVを超えた。