飲食店が生き残りを懸けて反撃に出ようとしている

コロナ感染対策の自らの無策を棚上げして、新宿歌舞伎町の飲食店をスケープゴートにしたのは小池都知事だった。

東京五輪を何としてでも開催したい菅首相も、感染対策の不備やワクチン接種の遅れを隠すために、飲食店全体を悪者に仕立て上げた。

だが追い詰められた飲食店は、生き残りを懸けて反撃に出ようとしている。

7月17日、土曜日の夕方5時半。東京・神田神保町の「ランチョン」に行ってきた。

ここの創業は明治42年(1909年)だから、今年で112年になる。洋食屋だが、古き良き時代のビアホールの香りが今も漂う名店である。

私が編集者時代、作家と打ち合わせをしたり、古本屋を覗いたりした後の夕暮れ時、ひとりでジョッキのハーフ&ハーフをあおったものだった。

そんな名店もコロナ禍で苦しんでいた。スポニチアネックス(4月25日5時30分)にこんな記事が載っている。

「東京・神保町で創業112年の老舗ビアホール『ランチョン』の4代目マスター、鈴木寛さん(56)は『基本的に要請に従って酒類を提供せずに時短営業をしたいと考えているが、周囲の対応を見ながら最終的に判断する』と迷いを見せた。

酒類を提供しない営業に切り替えた場合、75年ほど続いたビールの提供が途絶えることになる。『戦時中はビールが配給だったこともあり提供できない時もあったかもしれないが、戦後はなかったのではないか』と語る。

代々ビールを注げるのはマスターだけ。客の多くが熟練の技術で注がれた絶品のビールを目当てにやってくる。『お酒を提供できなければ正直苦しい。来月11日まで何とか耐えるしかない』と顔を上げた」

老舗「ランチョン」がついに酒を提供

そこに7月12日、4度目の緊急事態宣言が発令された。マスターの鈴木は決断し、7月15日にツイッターでこう呟いた。

〈神保町ランチョン★20時閉店★さまざまなご意見おありだと思いますが、お酒もお出ししての営業を決めました〉

心ない嫌がらせもあるかもしれない。過料も科せられる。

「ランチョン」の決断を無にするな。こういう時こそ三代続いた江戸っ子でガキの時からの酒呑みの出番だと、なけなしのカネを懐に駆け付けたという次第である。

雰囲気のある階段を上がって席に着く。個々のテーブルにパーテーションはないが、席と席は十分に間隔をあけている。7割ぐらいのテーブルが埋まっている。

ピルスナー・ウルケルのミルコを頼み、つまみにニシンのマリネ、エスカルゴ、エビフライ。ピルスナーのやわらかな泡が33度の猛暑をくぐってきた体を静かに冷やしてくれる。

私と同じように至福の時間を味わいたい人たちで、6時過ぎにはほぼ満席になった。