「酒の飲めない人は本当に気の毒だと思う」
酒を呑むとき、一番大切なのは高い酒でもうまい肴でもない。健康である。
体調が悪いと、とんだ失敗をする、他人に迷惑をかける。だから体調の悪いときに呑みに行ってはいけない、それが酒呑みのエチケットだ。こういったのは作家の山口瞳だった。
彼が今いたら、こういうのではないか。
「鰻や蕎麦を食いに行って酒が呑めないのなら、死んだほうがましだ」
山口は『酒呑みの自己弁護』(新潮文庫)で、
「酒の飲めない人は本当に気の毒だと思う。私からするならば、人生を半分しか生きていないような感じがする。体質でどうにも飲めない人は別として、すこしは修業されたほうがいいと思う。フグをジュースで食べている人を見るのは哀れである。ビールでも駄目だ。フグは日本酒に合うようになっている」
菅義偉首相、西村康稔経済再生担当相、小池百合子東京都知事は、フグをジュースで食べても何とも思わない人たちなのかもしれない。
彼らの酒を提供する飲食店への仕打ちは、もはやイジメといってもいいのではないかと、私は考えている。
ガラッと変わった春の緊急事態宣言
新型コロナウイルス感染が広がった当初、小池都知事は新宿・歌舞伎町をコロナ感染の火元のように“憎悪”して、歌舞伎町にある飲食店に徹底した自粛を要求した。
だが、安倍政権下の第1回、菅政権になってからの第2回までの緊急事態宣言下では、8時までの時短は要請したが、7時までの酒の提供は認められていた。
それがガラッと変わったのは、4月25日から5月11日まで、17日間の緊急事態宣言を発した第3回目からである。
酒を提供する飲食店には休業要請、提供しない店でも午後8時までの時短営業を求めた。
その背景には、菅首相の焦りがあったことは間違いない。何としても感染拡大を抑え込んで東京五輪を開催し、その勢いを解散総選挙へと持ち込んで首相の座を死守したいという彼の“妄執”である。
そのためには、5月中に感染を抑え込まなくてはならない。ワクチンを1日100万回ペースで打てという発想もそこから出てきたのだと思う。
だが、都の協力金や国の持続化給付金を申請してもなかなか振り込まれず、ランニングコストがまかなえないと悲鳴を上げる飲食店は多い。