「地域の映画館は、こんな時代だからこそ、必要なんじゃないかなと思うんです。大型商業施設のシネコンには、人の交流はないじゃないですか。ここは、『人が集える場所』にしたいんです。かつて映画館が3つもあったこの街に、50年ぶりに映画館が復活するというのが、すごく意味があると思っているんです。ここにきて、映画が好きな人たちが、映画の話をしたり、地域の話をしたりという、地域に寄り添える空間、憩いの場所になったらいいなと。本来、映画館って、そういう場所だったんじゃないかという思いがあり、それを地元でやりたいなという思いがありました」

映画館
写真=「シネマネコ」提供
3度目の緊急事態宣言が出される直前に、完成式典が開かれた

宮崎駿監督に送った手紙……気持ちが届いた片想い

オープンに当たり、“ファンレター”を書いた。相手はスタジオ・ジブリの宮崎駿監督だ。映画館で「風の谷のナウシカ」を観て、心から感動した。そのとき、子どもの頃から大好きだったジブリ作品は、ほとんどがテレビでしか観ていなかったことに改めて気がついた。

ジブリ作品は、ロードショウでの上映が終わったあと、ミニシアターなどでなかなか上映されない。劇場で観ることができないと、テレビやDVDを通じて観賞するしか方法がない。だが、映画館で観るジブリ映画は、格別の味わいがある。

映画館
写真=「シネマネコ」提供
完成式典であいさつをする菊池さん

「ダメモトで、“子どもたちにテレビでしか観ていないジブリ作品を、映画館で見せたい。新しくできる映画館の柿落としに、使わせて欲しい”と、手書きで手紙を書いたんです」

うれしいサプライズが起きた。2週間後にジブリの広報部から返事の手紙が来たのだ。もちろん心を込めて書いた手紙ではあったが、本当に宮崎駿氏が読んでくれるかは、自信がなかった。だから、連絡が来たときに、最初に持った感情は、まさか! だった。

「片想いって普通、気持ちが届かないものじゃないですか。それなのに思いが届いたので、すごく嬉しかった。驚きでした」

こうして、シネマネコの柿落としはネコ繋がりで、ジブリの「猫の恩返し」となった。だが、天はとことん「シネマネコ」の前途に試練を与えたいようだ。初日の天気予報は嵐。それでも、お客を迎える菊池さんは穏やかな笑顔を称え、劇場を後にする一人ひとりに小さな花束を渡していた。コロナ禍の閉塞した状況だからこそ、映画館には意義がある確固とした思いがある。紆余曲折を経て、それがようやく実現できたという喜びの前には、嵐など小さな問題でしかなかったのかもしれない。