飲食店で学んだビジネスの要諦「お客さんに喜んでもらうこと」

青梅に映画館を作る。そこには動かしようがない大義と価値があった。菊池さんにとって、いくら儲かるか、収益をどれだけ上げるかということより、重要なことははっきりしていた。それは、誰かに幸せになってもらうこと。楽しんでもらえること。10年間、飲食店で客の前に立ち続け、確信したことだった。

菊池康弘氏。完成式典で。
写真=「シネマネコ」提供
完成式典でスピーチをする菊池康弘さん

「どうやって売れるかは数字上の問題ではなく、目の前にいるお客さん一人をどれだけ喜ばせてあげられるか、なんです。美味しい料理を出して、楽しい話をして満足いただければ、ゆくゆくはうちのファンに、ヘビーユーザーになってくれる。そういうお客さんを一人でも多く作っていくのが、成功するかどうかだと思う」

地域の人たちが交流できる場にしたいと、カフェも併設したシアターの建設費用は8500万円。デザイン料やWEB制作などを合わせると、約1億円の事業。地元商店街との連携も強く打ち出し、地域全体の活性化を見据えたプロジェクトだ。

シネマネコ内のカフェ
写真=「シネマネコ」提供
映画館内のカフェスペースが地域の交流の場に

「そのうち、経済産業省の商店街活性化の補助金で5100万、クラウドファンディングで540万、地元企業の協賛金が400万弱、残りを自己資金で賄いました。補助金が下りるまでのつなぎ融資がすんなり決まったのは、飲食店での実績が大きかったですね」

杮落し。受付に並ぶ来場者。
写真=「シネマネコ」提供
杮落し。台風の中を来場者が続々と集まった

この場所を好きになってもらいたい

菊池さん自身、映画館が利益を出して行くことの厳しさ、ミニシアター経営の難しさは、もちろん自覚している。だからこそ、最も大きなテーマは、この場所を好きになってもらうことだ。

「ここに来ると、なんか心地いいよねという空間にしたかった。居心地のいい空間で映画を観て、終わってからカフェで会話を楽しんだり、本を読んだりもできる。サードプレイス的な場所作りが、この地域に多分、一番合っていると思うんです」

シネマネコ
写真=「シネマネコ」提供
都立繊維試験場だった木造建築の魅力を活かした映画館の内装

家庭(ファーストプレイス)や学校・職場(セカンドプレイス)以外のサードプレイスがあるからこそ、人は豊かに生きられる。菊池さんは地域の映画館という“街のシンボル”を作ることで、地元の人々にとってのサードプレイスを実現しようと試みているのだ。