簡単だけど、自分のための料理

卵は錦糸卵にしません。めんどくさいから。麵と一緒のお湯で半熟のゆで卵に仕上げます。昔付き合っていた彼女と「レトルトのソースを湯煎で温めながら同じ鍋でパスタを茹でることに抵抗があるか」でケンカしたことを思い出します。

あの頃の僕はそれが許せなかったのですが、今は平気になってしまいました。バスタオルだって冬場は毎日洗わないし、カレーはご飯よりもルー多めが好きになりました。こうやって、人は変わっていくのです。

麵は硬めで上げて氷水で締め、大好きな紅ショウガは多めに。牛丼屋に行くとどうしても紅ショウガをたくさん取ってしまいます。生姜には脂肪燃焼作用があると言われているので良しとしているのですが、明らかに塩分過多です。そんな紅ショウガも、いつか少なめが好みに変わってしまうのでしょうか。

ネギも大葉もミョウガも買ってきました。スーパーで買える合法ドラッグです。好きなだけザクザク刻みます。大好きな薬味が主役級の量です。

ハムが多すぎた。今、食ってしまおう。そしたらビールも開けよう。

せっかくなのできちんと盛り付けましょう。ゴマがない。ゴマくらいまあいいか。そもそも冷やし中華ってゴマかかっていたっけな。いや、ゴマはいるだろ。またコンビニ行かなきゃ。さっきファミリーマートでからし買ったばかりだから、ここはセブン‐イレブンだな。

麵を茹でて野菜を切るだけ。それでも、自分の、自分による、自分のための料理。使い終わった調理器具を洗いながら料理を進めるプロセス。スピーカーから流れるスピッツが愛と希望よりも前に響くことで有名な『春の歌』で料理の完成を祝福します。そうやって、東の空がグラデーションを描き始める頃、ようやく完成した冷やし中華を食べ始めました。

酸味のあるスープ。もちもちの卵麵に絡むからしとマヨネーズ。遠慮せず食べられる山盛りの薬味。トマトの甘味やキュウリの食感が大変心地よく、まったく食べ飽きません。あっと言う間にたいらげてしまいます。

いかん、量が足りません。全然足りません。幸い、麵は2食入りです。何のためらいもなく、もう一度麵を茹でます。でも2杯目は、野菜を切ったりきれいに盛り付けたりするモチベーションはありません。麵にスープとからしをあえて手でちぎった薬味をまぶして雑に混ぜて食べます。

外はすっかり朝です。さすがにここからもう一本お酒を開けるのは気が引けまして、満腹になったお腹を抱えながら寝床に潜り込みます。満腹で寝ることの代償は考えません。大満足です。

「おとなしくパンでも食っとけよ」

――ということを、既婚の女性に話したところ、

ウイ『38歳、男性、独身 淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。』(KADOKAWA)
ウイ『38歳、男性、独身 淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。』(KADOKAWA)

「まずい。非常にまずい。自分の城を築きすぎ。城って言うか要塞。第7サティアン。朝方、仕事終わりにコンビニに行く。ここまではOK。でも、春の空気を感じて冷やし中華作り始める? コンビニはしごして、結局その材料だけを買いにスーパー行くの? これが自分の旦那だと思うとゾッとする。普段料理しないくせに急にやる気スイッチ入れちゃだめなの。寒暖差ありすぎ。コンビニの蕎麦食っとけ。いや、蕎麦はズルズルすする音がするからダメだ。朝っぱらから蕎麦すする音で起きたら気分悪いわ。音楽も鳴らすな。イヤホンしろ。スピッツでも、だ。朝、腹減ったらおとなしくパンでも食っとけよ。ここでおとなしく、静かにパンをもぐもぐ食べる男が結婚するの。以上」

と、愛ある助言をいただきました。

そうか。パン、か。

次はおとなしく駅の近くにできたクラフトサンドイッチ屋さんでパンでも買って食べようと思います。ローストビーフのサンドイッチがおいしいらしい。

サンドイッチ
写真=iStock.com/lostinyonkers
※写真はイメージです

でも、早朝は開いてないから自分で作ろうかな。ローストビーフも上手に作れるし、なんなら小麦粉からパンを作ったっていいのです。

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