英国への“大量脱出”が始まっている

「私は2019年の民主化デモに運動家として参加しました。中国当局の逮捕対象になっているかもしれない」。香港から英国に移住した女性は、筆者に恐怖を口にした。

英国内務省によると、今年2~3月に「英国海外住民(BNO)パスポート」を持つ香港市民による英国へのビザ申請は3万4300件に達し、5月下旬までに7200人分が承認されたという。香港の2019年の海外移民者は7000人程度(香港の政府統計)だったことを考えると、大幅な増加だ。

香港では、民主派メディアの旗頭だった「リンゴ日報」が、6月24日付の朝刊を最後に発行停止、廃刊した。香港国家安全維持法(国安法)の施行以降、反体制的な言論への締めつけが強まったことで、香港市民の「中国レジームへの嫌悪感」が移住を決意させていることが分かる。

一方中国では、中国共産党が結党100周年を迎えた。7月1日には首都・北京の天安門広場で7万人を集め、壮大な記念式典が開かれた。

7月1日といえば、香港が24年前、英国から中国へと主権を返還された記念日でもある。その当日、極めて大掛かりな集会を行ったのは、「香港の中国化成功」を内外に知らしめるためのイベントという一面を感じさせる。

中国共産党100周年記念式典を受け、イギリス・ロンドンの中国大使館前で抗議活動を行う香港市民ら=2021年7月1日
写真=AA/時事通信フォト
中国共産党100周年記念式典を受け、イギリス・ロンドンの中国大使館前で抗議活動を行う香港市民ら=2021年7月1日

中国にとって、香港民主派の言論やデモ活動はいわば「目の上のタンコブ」だったわけだが、こうした勢力の殲滅に成功した中国当局の間では「当面の敵を倒した」と安堵が広がっていることだろう。“リンゴ潰し”のために国安法を作ったともいわれる中国にとって、リンゴ日報とはどのような新聞だったのか。

「真実を知らせる」と大義を掲げて登場

「リンゴ日報」は返還直前の1995年に発刊された。1991年から香港で暮らしていた筆者は、トップ面がカラー、そして巨大フォントの見出しで人々に訴える「リンゴ」の初号を手にして、明らかにそれまでの香港の新聞とは異なる姿勢を感じた。返還後の香港に不安を感じていた民主派寄りの人々のために「真実を知らせる」と大義を掲げた新聞の登場は、それなりのインパクトがあった。

それまでの香港では、中国系の報道姿勢をとる新聞が発行される一方、一般ニュースを掲載しつつ、どちらかというと芸能人のゴシップ記事を集めることで販売部数を確保していた大衆紙のどちらかに傾向が偏っていたと記憶している。