「幸福度」を国別・男女別にみると、先進国や発展途上国を含むほとんどの国は女性のほうが男性より低い。一方、日本は逆に男性のほうが低い。統計データ分析家の本川裕氏は「OECDの統計を分析すると、世界のスタンダードは『女性・高齢・低学歴の者ほど幸福度が低い』が、日本人はこれにすべて反している」という――。

世界の中で日本人の幸福度は低いのか高いのか

本連載で以前、「世界120位『女性がひどく差別される国・日本』で男より女の幸福感が高いというアイロニー」(2021年4月7日公開)というテーマを扱い、反響が大きかった。

今回はこの時とは別のデータを使い、やはり日本人の幸福度は、世界の傾向とは反対に女性の方が高い点を示すとともに、男女別だけでなく、年齢別、学歴別といったその他の属性でも日本人の幸福度は世界の傾向に反していることを紹介することにしよう。

本題に入る前に、まず、「日本人の幸福度は全体として高いのか低いのか」という点について確認しておこう。

OECD(経済協力開発機構)の幸福度白書の最新版(「How’s Life? 2020」)では、旧版と同様、幸福度を構成するさまざまの指標のひとつとして主観的幸福度(Subjective Well-being)のデータを掲載している。

私は、幸福度を論じる場合、幸福を左右すると思われる所得や生活環境、災害などに関するさまざまな指標を総合化して判定する方法では、どんな指標を使うかウエイトづけから恣意的になりがちなので、むしろ、この主観的幸福度そのものを重視すべきだと考えている。

同白書によれば「OECDのガイドライン」は主観的な幸福度の測定方法として以下の3つを区別している(※1)

①生活評価(生活満足度など生活の全体評価)
②感情(喜怒哀楽など、機嫌の良し悪し)
③ユーダイモニア(Eudaimonia)(人生の意味や目的、生きがい)

※1 同白書では、①として0~10までの段階別に答えさせた「生活満足度」、②として回答者の感情状態から作成した「ネガティブ感情度」のデータを掲げ、分析を行っている。①では日本や米国は該当する公式統計がないので比較対象から除外されている。③は国際比較できる高品質データがないとしてそもそも非掲載である。

まず、「日本人の幸福度の程度は」という疑問を解くために、4月7日の記事でも使った世界価値観調査の「幸福感」(※2)と、OECD幸福度白書が掲載している「ネガティブ感情度」(※3)という両方のデータで幸福度の各国比較を試みることにしよう。

※2「幸福かどうか」の設問に「非常に幸せ」及び「やや幸せ」と答えた割合の計
※3 調査日前日の感情状態についてネガティブな回答(怒り、悲しみ、恐れなど)がポジティブな回答(くつろぎ、喜び、笑う、など)を上回っている割合を指し、ギャラップ世界調査の結果からOECDが算出

日本人の幸福度は、韓国やコロンビア、ポーランドなどよりも低い

図表1には、OECD諸国の幸福度ランキングを「幸福感」と「ネガティブ感情度」の両方で示した(※4)。後者では、指標値の低いほうが幸福度は高く、指標値の高いほうが幸福度は低いと解した。

※4 一般に、先進国と途上国では事情や背景が大きく異なるので、生活レベルが一定水準以上の先進国だけで比較したい場合、先進国クラブと称されるOECD諸国のランキングが用いられることが多い。OECD諸国に関しては、統一基準で収集されたデータベースが整備されていて、相互比較の信憑性が高い点もOECD諸国比較が多用される一因となっている。ここでもそうした点を考慮してOECD諸国のデータを用いている。もっとも、最近、OECDの新規加盟国が増え、メキシコ、コロンビアといったラテンアメリカやスロベニア、エストニアといった東欧圏に属する必ずしも先進国とは言えない国々も含まれるようになっているので、その点にも分析上の配慮が必要である。

日本のOECD諸国の対象31カ国における幸福度ランキングは、世界価値観調査の「幸福感」では20位と低いほうである一方で、ギャラップ世界調査を用いた「ネガティブ感情度」では5位と高いほうである。