オムニチャネルとニューリテールの違い

「今、小売りは、チャネルやECという切り口から、『エコシステムと生活域』という切り口へと軸足を移しつつある」と中国のEC事情に詳しい小売コンサルタントのマイケル・ザッコアは言う。自然界なら、生態系があって、その中で生物がそれぞれ生息域を持つように、小売りの世界も、エコシステムの中で消費者が生活域で暮らすという発想だ。

このエコシステムと生活域が切り口になったのは、小売業者と顧客の関係を抜本的に見直した結果だ。その違いを理解するにはどうすればいいのか。

ザッコアによれば、オムニチャネルの世界では、企業が自らを中心に置き、顧客との関係を築くパイプとしてチャネルを用意していた。オムニチャネルは、こうしたさまざまなチャネルをつなぎ合わせて、親和性、一貫性、連続性を高めるということしか言っていない。問題は、その企業が依然として中心に居座っていることなのだ。

歯車を持ち寄るビジネスの人々
写真=iStock.com/ALotOfPeople
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一方、ニューリテールは、業態や体験、プラットフォームが完全に一体化されたエコシステムがあり、その中心を生活域にする顧客がいる。このエコシステム自体、ショッピングやエンターテインメントからソーシャルネットワーキング、決済に至るまで消費者が利用する体験をまるごと包み込んだ一種の安全圏であり、言い換えれば生活域である。

顧客がエコシステムにいる限り、ブランド側からは(データを活用して)顧客に利便性やカスタマイズ性を提供することと、顧客からの声や反応をいかに取り込むかに重きが置かれる。フィードバックのループが回り出せば、顧客からブランド側に重要な情報が届き、これを基にブランドは価値ある訴求が可能になるため、ますます顧客にとって価値は高まる。

ザッコアによれば、アリババのエコシステムには、前述した「タオバオ」「Tモール」「Tモール内ラグジュアリーパビリオン」、アントグループ(同社の金融子会社)など、いろいろな「生活域」が用意されている。顧客は、こうした生活域のいずれかに入って行動し、テクノロジーのおかげで生活域間を自由自在に渡り歩くことができる。実際、ニューリテール志向のブランドは、販路という発想さえないという。

世界最強のエコシステムを支える50種類以上の“傍受”ポイント

アリババが構築したエコシステムは世界最強であり、最たる例だとザッコアは見ている。「Tモール、Tモール・グローバル(天猫国際)、タオバオ、盒馬、銀泰百貨は、すべてが完全に共通のデータサイエンスシステムに接続されている」という。しかも、このシステムによって、アリババは、実店舗も含め、顧客に対するリアルタイムのデータを拾う“傍受”ポイントを50種類以上も持っている。

ニューリテールを理解するには、核となる基本構造と、その原動力となる「新しいエネルギー源」を理解する必要があるとザッコアは説明する。ブランドがこのエネルギー源を活性化すれば、ニューリテールが可能になり、「ユニファイドコマース」に発展するという。