また途上国の経済発展を考えた場合、資本逃避を防ぐことは非常に大きな課題となる。確かにBTCなどの暗号資産は、コストが低い国際送金のツールとしても使える。そのため暗号資産の利用が広がれば、途上国に流入する資本が増えると期待される。ただ流入しやすくなれば流出もしやすくなるため、資本逃避の規模も大きくなる恐れがある。

ビットコイン
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言い換えればこのことは、個人が国外に資産を移すツールとして、つまり資産防衛の手段として暗号資産が有効であることを意味している。しかし国単位での経済発展を考えれば、必ずしも歓迎できない動きである。資金洗浄(マネーロンダリング)などの組織犯罪にも使われかねないことから、中国やトルコなどは神経を尖らせているわけだ。

中国は経済が発展して久しい一方、人々の政府に対する信頼感が弱いこともあり、資産防衛の手段として暗号資産に強いニーズがある。5月21日には劉鶴副首相が暗号資産の採掘(マイニング)を規制する方針を示し、6月21日には中国人民銀行が一部の銀行や企業に対して暗号資産の取引を禁じるなど、当局は取り締まりを強化している。

キャッチアップの手段になり得ない暗号資産

戦後、いわゆる途上国が先進国にキャッチアップできたケースは非常に少ない。言い換えれば、途上国は途上国のままの状態が続いている。とはいえ、高名な経済史家アレクサンダー・ガーシェンクロンが示した「後発性の優位」という概念そのままに、途上国でもデジタル環境は急速に整備されており、先進国との差は大きく縮まっている。

かつて経済発展の王道は、輸出主導の工業化を図ることにあった。しかし近年、途上国は新たなキャッチアップの手段としてICT(情報通信技術)産業を重視、経済発展の経路が変わりつつある。暗号資産を経済発展の核に据える戦略もその延長線上にあると言えなくはないし、実際、エルサルバドルやウクライナはそれに活路を見出したと言える。

とはいえ暗号資産を法定通貨に定めることは、途上国の経済発展の根幹に関わる通貨の安定を自ら放棄することと同じ意味を持つ。それはまさに、国家ぐるみのギャンブルだ。そうした奇策が途上国経済の新たな発展戦略のスタンダードになるとは、到底考えられない。エルサルバドルの決断を徒に賛美する暗号資産推進派は、無責任極まりない。

途上国の通貨はボラタイルだから、暗号資産に換えても同様だという意見にも賛同できない。いくら途上国の通貨がボラタイルだとは言え、暗号資産ほどではない。キャッチアップの手段に苦慮する途上国には同情するが、発展の手段に暗号資産の様な不安定なツールを用いることは、やはり邪道以外の何物でもないと言えよう。

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