経済発展のノイズでしかない暗号資産

中米の小国エルサルバドルで6月8日、暗号資産であるビットコイン(BTC)が法定通貨として採用された。暗号資産の推進派はこうした動きを歓迎、新興国の経済発展にも貢献すると息巻いている。反して、暗号資産の慎重派はBTCを法定通貨に定めたことに対して懐疑的な見方を強めており、評価は文字通り二分化している。

エルサルバドルの狙いは、暗号資産を起点に金融立国を目指し、経済を発展させることにあるようだ。同様の思惑を持つ国も徐々に出てきており、例えば東欧にあるウクライナはその端的なケースとなる。とはいえ、ウクライナの場合は独自の法定通貨であるフリヴニャを維持しているため、エルサルバドルほど過激ではないと言える。

哀れな乞食の差し出された手
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ここで一つの疑問がわく。エルサルバドルのような途上国の経済発展を考える時、BTCなどの暗号資産は果たして有用だろうか。伝統的な経済学に基づけば、暗号資産は経済発展のノイズでしかないという見解に行きつく。その理由は、通貨の安定が途上国の経済発展の前提条件であるにもかかわらず、暗号資産の利用はそれと真逆の意味を持つからだ。

ではなぜ通貨の安定が必要なのか。一般的に途上国はモノ不足の経済、そのため国内のインフレ率が常に高い状態にある。しかしインフレ率が高ければ、経済は安定して成長できず、発展もしない。そこでインフレを鎮静化させるために、米ドルやユーロなど信用力が高い外国通貨と自国通貨との間の為替レートを安定させるのである。

為替レートを安定化させるためには、保守的な財政・金融政策が必要となる。とはいえ政治的な圧力を前にすると、どのような国でも財政・金融政策は拡張型になりやすい。その結果、自国通貨の為替レートは下落を余儀なくされ、そうであれば、いっそ独自通貨を放棄して、米ドルなどの外国通貨を自国の法定通貨に採用してしまえばいい。