●金井大旺:「五輪後は歯科医になる」と決めた110mハードル選手
金井は東京五輪をハードラーとして最後の舞台と決めて、その後は子供の頃からの夢である歯科医師の道に進む。東京五輪が1年延期されたことで、金井のアスリート人生も延長した。最後となる冬季練習でウエイトトレーニングの質と量を増やしたことで出力とスピードがアップ。日本陸上界の歴史を大きく動かすような成果を挙げている。
4月29日の織田記念国際大会で13秒16(追い風1.7m)の日本新記録を打ち立てて、関係者の度肝を抜いた。自己ベストを一気に0.11秒も更新して、アジア歴代で2位に急浮上。2020年の世界ランキングで4位相当、2019年の世界ランキングで7位相当のタイムをマークしたからだ。しかも、「まだ完全に出し切った感じはない」という感触を持っている。
日本の男子110mハードルは、9秒台対決で注目を浴びる男子100m以上の熾烈なバトルが繰り広げられる。同種目は110mの間に高さ106.7cmのハードルを10台跳び越える。トップ選手はハードルをクリアする際も重心の位置がほとんど変わらない。障害を下限ギリギリでクリアしながら、ハードル間を3歩で進む。悩ましいのが、スピードが上がりすぎると、9.14mしかないハードル間で脚が詰まってしまうことだ。彼らはその狭間を絶妙なハードリングと脚のさばきで、素早く駆け抜けていく。
日本歴代1~4位の記録を持つハードラー4人が直接対決
近年の日本選手権では金井、高山峻野(26・ゼンリン)、泉谷駿介(21・順天堂大)の3人が名勝負を繰り広げてきた。18年は金井が14年ぶりの日本新記録となる13秒36(追い風0.7m)で制すと、19年は前回王者&日本記録保持者が準決勝でフライング失格。決勝は日本記録に並ぶ“同タイム決着”となり、高山が0.002差で泉谷に勝利した。昨年は金井が大会タイの13秒36(追い風0.1m)で優勝。高山が2位、泉谷が3位だった。
金井、高山、泉谷の3人が保持していた日本記録は、2019年に高山が13秒30、13秒25と2度塗り替えると、今季は金井が13秒16まで引き上げた。さらに泉谷が13秒30、19歳の村竹ラシッド(順大)が13秒35をマークしており、日本歴代4位の記録を持つハードラーが日本選手権で激突することになる。
金井は、東京五輪で「ファイナル進出」という目標を掲げており、日本選手権の決勝は、東京五輪の準決勝をイメージして臨むことになるだろう。気象条件に恵まれれば3人が保持している大会記録(13秒36)の更新はもちろん、日本新記録の瞬間を目撃できるかもしれない。間違いなく、今回も熱いドラマが待っているはずだ。