おそろしいほど「風に恵まれない男」

直線で争われる100mは風の影響を大きく受ける種目だ。

スプリンター
写真=iStock.com/Tempura
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体格やフォームなどで数値は異なるが、0.1mの風で0.09秒タイムが変わるといわれている。無風状態と比較した場合、単純計算で追い風1.0mなら0.09秒の短縮、追い風2.0mなら0.18秒のタイム短縮となる。なお追い風2.0mを超えると「追い風参考記録」となり、公認記録として認められない。

かつて、1998年12月のアジア大会で伊東浩司が10秒00の日本記録(当時)をマークしたときは追い風1.9m。桐生祥秀が2017年9月の日本インカレで悲願の9秒台(9秒98)に突入したときは追い風1.8mだった。

一方、山縣は、不思議なほどに風に恵まれなかった。気象条件がそろえば、以下のレースですんなり9秒台が出ていた可能性がある。

【2016年】
織田記念(4月29日) 10秒27(-2.5)
東日本実業団(5月21日) 10秒12(-0.6)
布勢スプリント(6月5日) 10秒06(-0.5)
リオ五輪(8月14日) 10秒05(+0.2)
全日本実業団(9月25日) 10秒03(+0.5)

【2017年】
サマー・オブ・アスレティクスGP(3月11日) 10秒08(-0.1)
全日本実業団(9月24日) 10秒00(+0.2)

【2018年】
ゴールデングランプリ大阪(5月20日) 10秒13(-0.7)
布勢スプリント(6月3日) 10秒12(-0.7)
日本選手権(6月23日) 10秒05(+0.6)
アジア大会(8月26日) 10秒00(+0.8)
全日本実業団(9月23日) 10秒01(±0)
福井国体(10月6日) 10秒58(-5.2)

自己ベスト10秒00を2度出している。山懸のパフォーマンスを振り返ると、2016年からの3年間はいつ「9秒台」が出てもおかしくなかった。同時に風に恵まれず苦笑いする山縣の姿を何度も目撃してきた。

特に2018年度は充実しており、出場した19レースすべてで日本勢に先着する“無敵状態”だった。それだけにシーズン最後の福井国体が強い向かい風になったとき、筆者を含む多くのメディアは「山縣は本当に運がない男だ」と思った。なにせ会場は1年前に、桐生が9秒98を出した好タイムの出やすいスタジアムだったからだ。

桐生が10秒01を叩き出した2013年4月29日から日本のメディアは「9秒台」という夢を執拗に追いかけた。桐生と山縣はレースに出場する度に「9秒台の可能性」を質問された。メジャーな大会の場合、選手はENG(テレビ)取材とミックスゾーンのペン(記者)取材をこなすことになる。