日本からのワクチンに大喜び
6月4日午後、台湾・台北市郊外にある桃園国際空港に日本から贈られた新型コロナウイルスワクチンが到着した。台湾へのワクチン輸入をめぐっては、これまで中国による執拗な「妨害」に遭い、確保の見通しが遠のいていたこともあり、人々はもろ手を挙げて大歓迎、ネット上はもとより町中に日本に感謝する文字があふれた。
台湾はこれまで、徹底した入国管理や、感染者が持つスマホの動きから感染の広がりを追跡するなど、新型コロナウイルスの感染抑制で世界の優等生と目されていた。ところがここへきて、ワクチンの到着を渇望するほどに感染拡大が進み、台湾中がパニックに陥っている。
多くの国が、一定数の感染者がいることを許容する「ウィズコロナ」の社会を肯定しながら集団免疫の獲得を狙う中、台湾はコロナウイルスの流入を徹底的に阻止する「ゼロコロナ」の政策を推し進めてきた。1日当たりの感染者数は、2020年3月のコロナ禍の端緒こそ2桁の水準だったが、4月以降は1年以上にわたって1桁にとどまっており、台湾の人々は感染拡大をほとんど体験することなく過ごしてきた。
ところが、今年5月中旬に入り、台湾はまるで別の国になったかのように感染が拡大、15日から右肩上がりで感染者が増え続け、22日には過去最多の723人に達している。
たった4週間で感染者数が100倍に増加
今回の感染拡大で、台湾の人々はなぜパニックに陥ったのだろうか。1日当たりの新規感染者数は500人以下と、他国とは比べものにならないほど少ないのに、である。しかし次のような数字を知ったら、感染拡大のすさまじさを実感できるのではないだろうか。
2020年初頭のコロナ禍の初期から、今年4月の貨物機パイロットを起源とするウイルスの市中感染が始まる直前(今年5月10日)まで、台湾の感染者数は累計でわずか100人以下だった。ところが、そこから4週間で100倍以上の1万人超まで膨れ上がった。こうした事態を見て、政府や市民が冷静でいられるはずがない。
10万人当たりの感染者数をそれぞれ5月の感染ピークの1週間で比較すると、東京都は43.95人なのに対し、台湾は59.66人に達する。ほとんどは台北首都圏、台北と隣接の新北市から発生しており、しかも、台湾の方が概して人口密度が高いため感染拡大のリスクは大きい。
目下、台湾全土の警戒レベルは4段階あるうちの上から2つ目の「レベル3」と、外出制限はかかっているものの欧米型のロックダウンには至っていない。最初の緊急事態宣言が出た昨年4~5月ごろの東京の様子に近いと考えると分かりやすいだろうか。6月7日には、14日までの予定で続いている「レベル3」の2週間延長が決まった。
これほど劇的なまでに感染が拡大した理由と原因について、時系列でその経過を追ってみたい。