サムスングループにもストライキの波が

労組を重視した法律の改正などは、労使の対立を激化させた要因と考えられる。現代自動車をはじめとする自動車産業では、労組側から経営者への批判が強まり、ストライキも起きている。これまで深刻な労働争議を回避してきたといわれるサムスングループでも、ここにきて労使の対立が深まっているようだ。サムスンディスプレイでは賃上げをめぐって労使が対立し、はじめてのストライキ実施の可能性が高まっていると報じられている。

その状況に関して、ソウル在住の韓国経済の専門家は、「韓国の労使対立は1950年から60年代の日本の労働争議を思い起こさせる」と指摘していた。その状況下、企業の経営者と労働組合が協力関係を目指すことは容易ではないだろう。韓国の企業(組織)が一つにまとまり、より効率的な事業運営や、新しい、高付加価値の商品の創出を目指すことは難しくなっていると考えられる。

2013年3月26日、ソウルにあるサムスンのオフィスの窓にあるロゴ
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その影響を回避するための手段の一つとして、財閥系大手企業が海外での事業運営をより重視し始めた可能性がある。

足許の景気回復は一時的か

足許、韓国経済は主に外需に支えられて相応に堅調だ。ワクチン接種や経済対策などによって米国や中国の経済が急速に回復する状況下、半導体や車載バッテリーなどの外需をサムスン電子などの財閥系大手企業が取り込んだ。それが景気回復を支えている。

その一方で、韓国国内や東南アジア新興国などで新型コロナウイルスの感染が続いているため、非製造業の業況は不安定と考えられる。韓国経済における製造業と非製造業の二極化は鮮明といえる。

当面、半導体の輸出などに支えられて、製造業を中心に韓国経済は回復基調を維持するだろう。ただし、中長期的な展開は楽観できない。やや長めの目線で考えると、韓国経済の停滞感は高まる可能性がある。そう考える要因は複数ある。最低賃金の引き上げなどによって、韓国の雇用・所得環境は不安定化している。

不動産価格の高騰などによって家計の債務残高も増加した。それに加えて、韓国では少子化問題も深刻化している。経済が縮小均衡に向かう可能性が高まる中、労働争議は激化する恐れがある。