コロナ不況にあえぐ企業は少なくありません。しかし、これまでに50以上の事業を立ち上げてきた守屋実さんは「全世界的に『不』の解決競争が巻き起こる」と今後を予測します。守屋さんが新規事業の有望な領域として注目する“既得権益のほころびが見える分野”とは――。

※本稿は、守屋実『起業は意志が10割』(講談社)の一部を再編集したものです。

医療技術コンセプト
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

「既得秩序のほころび」による新大陸の登場

これからも、不況による経営悪化や倒産など重苦しいニュースが流れる時期が続くかもしれない。しかしながらその一方で、全世界的に「不」の解決競争が巻き起こる。多様な新規事業が乱立する有望な領域も存在すると考えている。

そのひとつが、「既得秩序のほころび」が生じた業界だ。既得秩序とは、既得権益が強く、「不」の解消が進まない業界のことだ。コロナ禍において、この既得秩序のほころびが大きく生じているのが、医療、教育、行政の分野だ。なぜ、これらの業界に大きなほころびが生じたのか。それは、これまでほとんど「動いてこなかった」ゆえに、コロナの影響がより大きな「進化圧」としてのしかかったからである。

医療分野では、新型コロナウイルス感染症への対応により現場の多忙化や疲弊が報道されている。しかし、医療従事者がクタクタになるほど働いている反面、病院の利益は低下。それにはさまざまな要因があるが、大きな打撃のひとつは高齢者が通院を渋るようになったことである。

そもそも我が国には、「医療費の増加で日本の財政は破綻する」といわれるほど、高齢者の医療費が重くのしかかっていた。それが、新型コロナウイルス感染症を考慮して、病院に行かなくなってしまったのだ。もちろん、病院に行かなくて済むように健康に留意したり習慣と化していた通院を見直したりしたのであれば、よい転換のタイミングとなったと見ることもできるが、医療にかからねばならない人が、治療をおろそかにしているのならば、それは大きな問題だ。

医療はこれまで変わるタイミングを逸してきた領域だった。僕は医療業界の仕事をいくつも経験してきたが、その中で出会った医師たちは志と情熱を持って患者に向き合っている人格者が多かった。しかしながら、人の命を預かる医療の世界は、時に変革を阻む大きな力が働き、かたくなに既得秩序を守る岩のように動かない産業でもあった。

変わることができなかったその業界が、「コロナ」という外圧により、大きな転換を迎えている。

広がりそうで広がらなかった遠隔医療は、これまで必要性を感じたことがなかった人にまで、利用が広がりつつある。そしてさらなる改良により、大きく広がる可能性があると思っている。

たとえば、遠隔医療を必要とする人の中には、継続的な治療が必要で、かつ感染症にかかりやすい高齢者が少なくない。高齢者が対象だと考えると、現時点でのオンラインサービスの使用のハードルはどう考えても高い。そこで求められるのが、ITに明るくない世代にも、受け入れてもらえるような“翻訳”をするサービスを設計していくプレイヤーだ。最先端技術を開発する存在だけでなく、最先端技術を「昭和の言葉」に訳すような事業が求められると僕は考えている。

さらにいうと、僕は、今回の新型コロナウイルス感染症蔓延という状況を機に、我が国らしいPHR(パーソナルヘルスレコード)を構築すべきではないかと思っている。PHRとは、個人健康情報管理のことで、これが実現すればこれまで病院や薬局ごとに別々に管理されていた個人医療データを自分が管理できるようになる。

個人情報保護やセキュリティーの壁はあるものの、実現できれば医療機関が変わる度に同じ検査をやり直したり初診の問診票を何度も書いたりすることがなくなる。さらに、科ごとに分断されてきた情報を一元化させて、ホリスティックに(身体と精神を総合的に)患者を診られるようにもなる。

さまざまなサービスのオンライン化が余儀なくされた今回の新型コロナウイルス感染症の一件は、医療介護ヘルスケア業界にDX(デジタルトランスフォーメーション)を起こす最大のチャンスとなっている。