コロナで客が「瞬間蒸発」した領域にチャンスあり

既得秩序が強い領域に加えて、もうひとつ、大きな進化圧を受けたのは「瞬間蒸発」が生じた業界だ。ビジネスでの瞬間蒸発とは、一瞬にして顧客がいなくなったということを意味する。感染症対策では、「人と会わないこと」が大前提となる。今さら僕がいうまでもなく、ウィズ・コロナの時代となり他者と対面する機会はぐんと減った。大人数が集合する機会は、一層なくなった。本書を執筆している2021年の初春も、不特定多数の人が集まる場でのクラスターが報道されているから、この状況はしばらく続きそうである。

守屋実『起業は意志が10割』(講談社)
守屋実『起業は意志が10割』(講談社)

具体的に「瞬間蒸発」により事業が逼迫したのは、たとえば、飲食、観光、イベントの業界だ。とはいえ、これらの業界へのニーズが消えたわけではない。冒頭でもお伝えした通り、人の胃袋がある限り飲食業界のニーズは残り続ける。これは、旅行業でもイベント業でも同じことがいえる。いや、むしろ制限される不満で、これまで以上に「旅行したい」「イベントに参加したい」という思いは強まっているかもしれない。

だからこそ、その「不」を解決する新規事業が喉から手が出るほど求められることになる。

飲食業においては、デリバリーやお取り寄せが一気に普及した。ウーバーイーツのある生活は、すでに日常的なものになっている。たとえば、こんな展開もある。僕が立ち上げに参画した印刷ECのラクスルは、各飲食店のデリバリーサービス展開ニーズを察知し、デリバリーメニューチラシのテンプレートサービスをリリースした。店舗名やメニュー内容を記入さえすれば、すぐにレイアウトされ、配れるようなチラシができるサービスを間髪容れずに始めたのだ。デザインから印刷、必要であれば近隣の住宅へのポスティングをセットにし、その当時、各飲食店の「不」に徹底的に対応したのである。このサービスはもちろん、非常に好評となった。

観光業においては、これまでの隆盛を支えていたインバウンドが、一瞬でその99%が消え失せた。業界全体に、壊滅的な打撃を与えた。

では、観光業は不要となってしまったのか。もちろん、そんなことはない。「海外旅行から国内旅行へ」「遠出から近場へ」「量から質へ」「休日やトップシーズンから平日やオフシーズンへ」「リアル旅行からオンライン旅行へ」などの切り替えが遂行されていった。「これまでの旅行」から、「これからの旅行」に変容する形で、人々の「訪ねたい」という欲求を満たし、存続を図ろうとしている。

イベント業においては、「集合リスク」への対応として、「オンラインイベント」がすでに定着してきている。ビフォー・コロナの時代では一部の人しか知らなかった、ウェブとセミナーを合わせた動画を使ったインターネット上のセミナーである「ウェビナー」などの言葉が、ウィズ・コロナの時代となり、すでに一般用語として定着したように思う。むしろ短期間で準備ができ、低コストでイベントを開催できるようになったと考えると、可能性が広がっているという見方もできる。

繰り返すが、人々は、飲食、旅行、イベントの「瞬間蒸発」してしまった領域への欲求を失ったわけではない。むしろ、抑えられている分その欲求を埋める術を希求している。これまでのサービスに代わるものが提供できれば、新規事業として大きなパワーを発揮するものとなる。「瞬間蒸発」した領域は、起業による課題解決が待たれている業界であるともいえるのだ。

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