大手が保有する「高スペックビル」は満室が続いている

だが、スペックの高いビルは少し賃料を下げれば(あるいはフリーレント期間を長くすることで事実上の賃料引き下げを実施すれば)、あっという間に次のテナントが決まる。賃料の関係で入居を逡巡していた企業にとっては、コロナ危機は一流ビルに入れるチャンスと映る。

テナントを奪われたスペックの低いビルのオーナーは、やはり賃料を引き下げて、さらにスペックの低いビルからテナントを奪う。

こうした動きが各所で発生することで、オフィスビル市場ではテナントの玉突きが発生するが、高スペックのビルは引き続き、満室稼働が続くという図式になる。あらたに竣工するビルがあった場合には売上高の絶対値も増えるので、業績はプラスになるという仕組みだ。

新宿の高層ビル群と青い空
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コロナ危機は経済全体に大きな影響を与えているが、状況は均一ではない。

有利な事業者とそうでない事業者の格差が拡大しており、不動産業界もそれは同じである。コロナ危機が終息すれば商業施設の収益も改善するので、少なくとも大手3社の業績はすぐに回復する可能性が高い。

ワクチン接種が進んでいる米国では、不動産市況はすでにプラスに転じており、遅れているとはいえ日本でも同じ状況が到来するだろう。

コロナ禍でも「上京する」という構図は変わっていない

ではマンションの販売事業はどうだろうか。このところテレワークが定着してきたことから、東京など都市部から田舎に転居するケースが増えているという記事をよく目にする。

だが、こうした記事の一部は、事実(ファクト)ではなく、単なる願望をベースに執筆されていることも多いので注意が必要だ。

確かにコロナ危機後、東京都からの転出超過が目立った時期があったが、それは失業などによって生活の維持が難しくなり、実家に戻るといったケースがほとんどであり、積極的な転居とは言い難い。

2020年全体では東京は転入超過であり、例年と比較して絶対数は減っているものの、やはり就職や入学などで多くの人が上京しており、3月は大幅な転入超過となった。

加えて言うと、東京都は転出超過が目立ったが、一方で埼玉など近隣県では転入超過となっており、首都圏内の移動が多かったことが推察される。仮に転居という動きがあったとしても、それはあくまで近い範囲での動きということになる。

つまり首都圏全体では人口が増えているにもかかわらず、コロナ危機で工事が滞り、新築マンションの供給は減っている。結果として少ない案件の争奪戦となっており、2020年における首都圏のマンション販売平均価格は6000万円を突破した(ちなみに2021年4月の平均販売価格は何と7764万円に達している)。