KGBの役人だったウラジーミル・プーチンは、なぜロシアの大統領になれたのか。作家の佐藤優さんは「プーチンはどれだけ誘いを受けても、恩人を決して裏切らなかった。それがエリツィン前大統領に高く評価された」という――。(第1回/全2回)
※本稿は、佐藤優『悪の処世術』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
プーチンの「人情家」という意外な一面
鉄仮面のプーチンだが、しかし、その仮面の内側には「人情家」という意外な一面を抱え持っている。
そして、その意外性こそが彼が権力の階段を駆け上る切符となった。そもそも、彼はなぜ、ロシア連邦初代大統領エリツィンから絶大な信頼を得るまでになったのか。
私が、ロシアのある大富豪から「エリツィンは後継者をFSB長官のプーチンにするつもりらしい」と聞いたのは、1999年春だった。
当時のロシアでは、8人のオリガルヒヤ(寡占資本家)がGDPの3割を持っているといわれていた。クレムリンも彼らの意見を無視はできないのだ。
この大富豪は私を日本政府の窓口にしていたので、私は彼の事務所に足を運ぶことがよくあった。日本の政治情勢などについて一通り話したあと、彼にエリツィンの後継者について尋ねてみたところ、大富豪から出てきた名前が意外なことにKGB出身のプーチンであった。
「プーチンはエリツィンに何度も、ソプチャーク(元サンクトペテルブルク市長)との関係を断てば登用すると打診されていたが、それを断っているんだ。そのことで、かえってエリツィンは彼を信用するようになった」
ソプチャークという人物が何者かを知るためには、若かりし頃のプーチンについて触れておかなければならない。