しかも、コー氏はバッハ氏引退後のIOC会長職を引き継ぐことが確実視されている。札幌のテスト大会を視察したコー氏は「今日、札幌そして北海道は最高レベルの大会を運営する力があることを示し、証明された」と絶賛しており、欧州にとどまっているバッハ会長にもその様子は伝わったはずだ。バッハ会長がわざわざ来日せずとも、コー氏がその役割を十分に果たしている。

本当に日本に決定権はないのか

では、本当に五輪中止の決定権は日本側にないのだろうか。誘致が成功した直後に東京都とIOCが結んだ「開催都市契約」を改めて読んでみた。以下に、東京都が発表した訳文を記してみたい。

XI.解除
66.契約の解除
a)IOCは、以下のいずれかに該当する場合、本契約を解除して、開催都市における本大会を中止する権利を有する。
i)開催国が開会式前または本大会期間中であるかにかかわらず、いつでも、戦争状態、内乱、ボイコット、国際社会によって定められた禁輸措置の対象、または交戦の一種として公式に認められる状況にある場合、またはIOCがその単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合。

なお、契約書には予測できない不当な困難が生じた場合についても条項があり、その際OCOG(組織委)は「合理的な変更を考慮するようにIOCに要求できる」とあるが、その後に「ただし」と続く。

変更は本大会またはIOCに対して悪影響を与えないことが前提条件であり、その裁量はIOCのみに委ねられている。そしてIOCがその変更を考慮したり、対応したりする義務を負わないことでも同意しているのだ。

つまり、本大会を開催できないような状況に陥った場合、東京の組織委は大会中止のお伺いをIOCにすることは可能だが、それを検討さえしてもらえない、門前払いになる可能性がある。

新国立競技場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
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まるで不平等条約だ

中止の権利については、IOCは第66条でその権利を有しているものの、開催都市や国が中止を申し出る権利はどこを読んでも記されていない。あまりの不公平さに驚き、英語原文を読み直してみたが、確かにそう記されている。

これでは、開催地が「本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠」にさらされているとIOCが判断しない限り、中止に向かうことはない。ある時点でコロナ感染状況が極めて悪化し、厳しい感染防止措置をとってもそれに実効性がなく、関係者にも蔓延が進む……という日本にとって悲惨な状況が訪れて、ようやく重い腰をあげてIOCは「中止」とでも言い出すのだろうか。