今年2月、イギリスのシンクタンクが「2020年の世界の軍事費が過去最高水準に達した」と発表した。コロナ禍で景気後退しているのに、なぜ軍事費が増えているのか。ライターの石動竜仁さんは「最大の原因は、米国が国家間紛争に備えた軍備に転換していることにある」という――。
日米豪印による合同海上演習「マラバール」(インド沖)=2020年11月17日
写真=AFP/インド海軍提供/時事通信フォト
日米豪印による合同海上演習「マラバール」(インド沖)=2020年11月17日

なぜコロナ禍でも軍事費が増大しているのか

昨年から世界に深刻な影響をもたらしている新型コロナウイルスのパンデミックであるが、そんななかでAFPが次のような記事を配信した。

【2月26日 AFP】英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」は25日、2020年の世界の軍事費が、新型コロナウイルスの流行とそれに続く景気後退の影響にもかかわらず、過去最高水準に達したと発表した。中国の海軍増強などが増大をけん引したとされる。
世界の軍事費、コロナ禍でも過去最高水準に

新型コロナウイルスの世界的流行下にもかかわらず、世界の軍事費は増大したという趣旨の記事だ。なぜ、軍事費は増大したのだろうか。

結論から述べてしまうと、景気後退下にあっても軍事費が増大するのは、以前から珍しいことではない。軍事費は中長期的な計画に基づいているし(これは大抵の国家支出もそうだが)、各国における軍事的な脅威の状況によってはおいそれと削れない。そして、現在はおいそれと削れない状況にある国が多いのだ。

事実、新型コロナの流行下にあっても、世界では紛争が絶えない。

銃器は使われていないものの、2020年6月には中国とインドの間でも係争地を巡って両国の兵士が衝突し、両軍に多数の死傷者が出ている。

2020年9月にはアゼルバイジャンとアルメニアの間で、両国の係争地であるナゴルノ・カラバフを巡って大規模な武力衝突が発生している。パンデミックの最中でも国家の意思を覆すのは容易ではないことを示す一例かもしれない。