しかしスコットランドが英国から独立すれば、おのずと独自の通貨を持つ必要に迫られる。そのため発券機能を持つスコットランド独自の中央銀行を設立しなければならない。そして新設された中銀は、スコットランド政府の信用力に基づき、通貨を発行することになる。ここで意味するスコットランド政府の信用力とは、財政の健全性にほかならない。

コロナ禍で英国の公的債務は国内総生産(GDP)の規模を60年ぶりに上回ったが、スコットランドは独立に当たり、最終的にはその経済規模に応じた公的債務を引き継ぐ必要がある。それに英国は経常赤字、つまり貯蓄不足の国であるが、スコットランドもまた同様だ。保守的な財政運営に努めないと、新たに発行する国債の買い手など見つからない。

それにスコットランドは人口わずか500万人強にすぎず、内需も厚みに欠ける。つまり需給の両面で、スコットランド経済は成長の余力に乏しい。よほどタイトな財政運営をしない限り、外国人投資家がスコットランド国債を好んで買うことは考えにくい。そうした状況では、中銀が新たに発行する独自通貨も投資家の信認を得ることができない。

グレート・ハイランド・バグパイプを演奏する男性たち
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EU再加盟への道のりは極めて長い

それにスコットランドが独自通貨を導入しても、当面は交換性に乏しい状態が続く。つまりスコットランドで独自通貨を米ドルなど外貨に交換できても、外国ではそうした交換が成り立たない。皮肉なことに、スコットランド人が資産防衛のために独自通貨を国内で外貨にどんどん交換するため、固定相場制を導入したとしても維持できないだろう。

そうなると、スコットランドの独自通貨は早晩、通貨危機に陥ることになる。そうなれば、これまでスコットランド人が積み上げてきた金融資産の価値が大幅に目減りする。とりわけ年金受給者は悲惨であり、生活が貧しくなることは目に見えている。欧州債務危機の際にギリシャがユーロから離脱しなかった(できなかった)理由と同じだ。

またSNPは、スコットランドが独立したらEUに再加盟する方針を堅持している。英国は元々EUに加盟していたわけだから、EU加盟基準(コペンハーゲン基準)のうち政治的基準(民主主義、基本的人権の尊重など)や法的基準(国内法とEU法との整合)はほとんどクリアしているが、経済的基準となると、やはり話は変わってくる。

経済的基準とは、物価や金利などを中心に要するに安定したマクロ経済環境を維持することを意味する。物価や金利などを安定化させるためには、どうしても保守的な財政運営が欠かせない。スコットランドが独立した場合、少なくとも数年、マクロ経済は混乱を余儀なくされる。経済的基準を満たすためには最低でも10年はかかるだろう。