他のEU加盟国が歓迎しない恐れ

先に述べたコソボの場合、アルバニア系住民の実効支配が続いており、セルビアとの関係が長らく緊張していたことなどから、EU各国はコソボを独立させた方が地域の安定に貢献すると判断し、その独立を容認した経緯がある。復興支援の観点からEUはコソボでのユーロ利用を黙認したため、コソボは独自通貨発行の問題を回避できた。

コソボの人口は200万人に満たず、また所得水準も4000米ドルを超える程度と低い。そして何より、セルビアがEUにまだ加盟しておらず、コソボの独立もEUにとってはある意味で対岸の火事であった。しかしながらスコットランドの場合、袂を分けたとはいえ近しい関係を維持したい英国との兼ね合いもあり、コソボのようにはいかない。

それにEU各国の中には、英国と同様に地方の独立問題を抱えている国が少なくない。非常に有名な例としてはスペインのカタルーニャ州があるが、スコットランドの独立がそうしたEUの中でくすぶる地域ナショナリズムを刺激する恐れは非常に大きい。つまり、スコットランドの独立を、EU各国は歓迎するどころか、忌避する恐れがある。

こうしたことを最も良く分かっているのは、実はSNPだろう。それだけに、スタージョン行政府首相らSNP指導部がいたずらに独立に向けた動きを仕掛けてくるとは、まず考えられない。今後は民意の動向を見極めつつ、スタージョン行政府首相は英国のジョンソン首相に対して、高度に政治的な駆け引きを展開することになるはずだ。

国民投票が悲劇的な結果をもたらす教訓

しかしながら、われわれはすでに英国のEU離脱というショックを経験している。それは政治が国民投票という手段で民意を利用しようとした結果、その制御を放棄した末の悲劇ともいえる。経済的には極めて非合理な決断がスコットランドでなされたとすれば、それは英国、特に民意をもてあそんだ責任政党である保守党にとり、皮肉以外の何でもない。

なお日本では5月11日、国民投票法案が衆議院で可決された。国民の声が政治決定に反映され易くなると期待される一方で、政治がそれをもてあそぶような事態が生じる危険性もはらんでいる。国民投票や住民投票が悲劇的な結果をもたらす可能性があることについて、英国やスコットランドの動きからわれわれが学ぶことは多いといえよう。

【関連記事】
「これ以上血税は使わせない」ハリー王子夫妻を見限った英王室の苦しい事情
「選挙に行っても、世の中変わらない」中国人が独裁政治を受け入れる本当の理由
「中国依存からEUに鞍替え」借りた金を返さないというモンテネグロのしたたかな戦略
Jリーグを殺すのは「欧州スーパーリーグ」を否定する人たちである
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」