「選手から東京五輪中止を言わないんですか?」という圧力

池江がツイッターで告白する以前から、東京五輪を目指すアスリートへの批判が高まっていた。スポーツ関連の記事が公開されると、ネットには、「東京五輪よりも人の命が大切です」「選手の方から東京五輪中止を言わないんですか?」「それほどスポーツが大事?」といったコメントが並ぶようになった。

女性のフリースタイル
写真=iStock.com/ferrantraite
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5月5日に行われた、東京五輪のマラソンコースを使用したテスト大会「札幌チャレンジハーフマラソン」でも、沿道に「五輪ムリ、現実見よ」というプラカードを掲げた人がいた。

レース後の会見では、「この状況下で本当に走って良いのかと思うこともありますし、不安な状況で練習しているときもある」と東京五輪男子マラソン代表内定の服部勇馬(トヨタ自動車)は苦しい胸の内を明かしている。

「私たちスポーツ選手は国民の理解と応援があって成り立つ職業です」

5月9日の東京五輪テスト大会では新国立競技場の周辺で抗議デモが行われた。同大会に出場した女子10000m日本代表に内定している新谷仁美(積水化学)は、この件について質問が及ぶと、こう答えた。

「スポーツに対してネガティブな意見を持っている方は当然いる。その人たちの気持ちにどう寄り添っていけるかが重要だと思います。私たちスポーツ選手は国民の理解と応援があって成り立つ職業です。国民の意見を無視してまで競技をするのはアスリートではありません。応援してくれる人たちだけに目を向けるようでは、私は胸を張って日本代表ですとは言えないです」

新谷は自身のSNSでも自分の意見をキッパリと表現するタイプだが、アスリートにこうしたことを語らせてしまう日本特有の同調圧力のような空気というのはいかがなものか。

筆者は取材を通して、代表内定選手たちは口には出さないものの、心の中で「東京五輪を開催してほしい」と強く願っているのをひしひしと感じている。

2020年12月4日と2021年5月3日の日本選手権10000mで男子は相澤晃(旭化成)と伊藤達彦(Honda)。女子は新谷仁美(積水化学)、廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)、安藤友香(ワコール)が代表内定をゲットした。

しかし、新谷と廣中を除く3人は東京五輪が1年延期されなければ、代表内定を得られる見込みはかなり薄かった。逆に、彼らが内定を得たことで、本来なら代表に入れた選手が漏れた可能性もある。すでにアスリートたちの人生は変わりつつある。