なぜホームレスの「暴行殺人事件」が起きるのか
2020年3月、岐阜市の河川敷でホームレスの高齢男性が少年らに襲われて死亡する事件があった。同年11月には渋谷でホームレスの高齢女性が中年男性に暴行を加えられ死亡した事件が続いた。
これらの事件は大きなニュースになったことから記憶している読者も少なくないだろう。なぜ、こうした痛ましい事件が繰り返し起こるのか。背景には、ホームレスをはじめとする社会的弱者への無理解・偏見がある。
われわれは社会的弱者に転落するリスクと無縁ではない。家族、地域、企業などこれまでの社会を支えてきた基盤はどんどん不安定になっていて、貧困や失業のリスクは増している。コロナ禍の広がりはそのことを一層実感させた。それにもかかわらず、ホームレス問題をどこか縁遠いものと捉えていないだろうか。
現在、日本の政府が把握しているホームレスの数はおよそ4000人。ホームレス問題を20年近く研究してきた筆者にはかなり少ないと感じられる。バブル経済の崩壊を受け、1990年代中頃には仕事と住まいを失い、ホームレス状態を余儀なくされた人々が溢れた。東京や大阪の都心部に近い公園、河川敷などではブルーシートでこしらえた小屋などで暮らす人が目立った。
統計上、ホームレスはこの20年弱で「6分の1」に減っている
1998年に大阪市で実施された調査では8600人ものホームレスが確認されている。この時点では国のホームレス対策はほとんどなく、ボランティア団体が生存を支えるための支援を講じることがやっとの状態だった。
2000年代に入るとホームレス問題の解消を目指す社会運動の成果もあり、ようやく国の対策も一定程度進むようになった。以来、ホームレスの数は右肩下がりに減少し、2003年に全国で2万5000人いたホームレスは、2012年に1万人弱まで減少した。厚生労働省によれば、2021年1月時点の全国のホームレス数は3824人(男性3510人、女性197人、性別不明117人)。2003年の調査開始以来、最少になったという。
1990年代から2000年代はじめにかけて、ホームレス問題の主たる要因は失業だと考えられていた。事実、ホームレスを対象にした各種調査によれば、直前職が非正規雇用の者が多く、とりわけ建設業に従事する中高年の日雇い労働者が目立った。ホームレスに対して「おっちゃん」のイメージが色濃いのはそのためだ。