統計には出てこない「流動するホームレス」が増えている

政府が把握しているホームレス数の推移を見ていると、日本のホームレス問題は解消に向かっているかのようだ。しかしそれは事実とは異なる。

日本では20年ぐらい前までは路上でブルーシートを張って暮らすホームレスの存在が目についたが、近年はこうした行為への取り締まりも強化されているし、住所不定者に対する生活保護の適用も進んできた。したがって現在の日本ではホームレスという存在は、きわめて見えにくいものとなっている。

ホームレス支援に取り組む認定NPO法人Homedoorの夜回り活動の様子。スタッフの他、ホームレス経験者、学生や社会人のボランティアなど、多様な属性人々が混じり合って活動している。
ホームレス支援に取り組む認定NPO法人Homedoorの夜回り活動の様子。スタッフの他、ホームレス経験者、学生や社会人のボランティアなど、多様な属性人々が混じり合って活動している。

不可視化したホームレスは当然、統計上にも現れにくくなっている。なぜなら、国のホームレスの統計は目視で調査した結果だからだ。特定の拠点で定住しているホームレスが減り、流動するホームレスが増えるようになると、その数は把握しづらくなる。

筆者も支援団体の夜回り活動に参加することがあるが、特に市街地にいるホームレスは場所を転々としていたり、深夜営業の店舗で夜を過ごしていたりすることから、周囲からホームレス状態なのか否かが判別しにくい。このように流動するホームレスは固定するホームレスに比べて発見されにくく、介入も難しい。

国の調査では「ホームレスの96%は男性」となっているが…

また生活保護を利用するなどしてホームレス状態から脱却しても、それは問題の一部が解消しただけの場合が少なくない。というのも屋根のある暮らしは確保できたとしても、社会関係が極端に希薄で、自分の困りごとを話せる他者がいない(社会的孤立)、自分の存在を肯定してくれる仲間がいない(承認の不在)といった、諸課題が横たわっているからだ。

「ハウス」(物理的な居住空間)は何とかして確保できたとしても、「ホーム」(あたたかな社会関係)から排除されている人たちは少なくないのだ。

筆者が「ホームレス問題は本当に解消に向かっているのか?」と疑問を呈するのにはもう一つ理由がある。厚生労働省による調査で把握されているホームレスと、民間の支援団体で把握されているホームレスとの間にギャップがあるからだ。

2016年に実施された厚労省の調査(ホームレスの実態に関する全国調査<生活実態調査>)によると、ホームレスに占める男性の割合は96%を超えている。また、平均年齢は61.5歳と高い。ホームレス歴が10年以上の者も全体の35%を占めている。これらのデータからは、長期間ホームレス状態で暮らす中高年男性の姿が浮かび上がる。一般的なホームレス像もこれに近いだろう。

一方、民間の支援団体で把握されているホームレスは幾分様相が異なる。