獣医師が避妊去勢手術を施さなければ、殺処分は終わらない

経験を積んでいく中、衝撃的な出会いがあった。

野良猫の避妊去勢手術をする獣医師に出会ったのだ。

「ケット・シー」でのケージの様子。殺処分を免れた猫が保護されている。(撮影=笹井恵里子)
「ケット・シー」でのケージの様子。殺処分を免れた猫が保護されている。(撮影=笹井恵里子)

「野良猫、つまり飼い主のいない猫を診る人なんて見たことがなかったんですよ。その人は言っていました。『ボランティアは誰でもできるけど、避妊去勢手術は獣医師にしかできない。繁殖制限こそが殺処分ゼロへの近道。獣医師がこれを施さなければ、殺処分は終わらない』と。頭をがーんと殴られたようでした」

齊藤さんは幼い頃、母親と一緒に、殺処分を待つ犬猫を見に行ったことがある。たくさんの犬や猫が保護されていた。ここから1匹だけ選ぶことなんてできないと肩を落として帰宅した。

殺処分を待つ数多くの犬猫をゼロにするには、獣医師がやらなければいけない。目の覚めるような思いだった。

愛猫家が見ず知らずの猫のために数千円を払うワケ

2010年、齊藤さんは看板も出さずにクリニックを立ち上げ、野良猫に対する避妊去勢手術を始めた。ボランティアが野良猫をつかまえ、その手術を数千円で請け負うのだ。

私はボランティアもすごいと感じる。たった一回出会っただけの、見ず知らずの猫の避妊去勢手術のために自分のお金で数千円を払うのだから。そこには猫への強い愛情がある。そして齊藤さんと同じように、殺処分ゼロの世界を目指している。

「殺処分ゼロは夢物語っていう人、いっぱいいます」と、齊藤さんは力強く話す。

「戦争がない平和、交通事故ゼロもそうですが、無理だよって言った瞬間、それは目指していないことになる。特に避妊去勢手術ができる獣医師は諦めちゃいけない。もし、『そんなの到底無理』という獣医師がいるなら、その先生の前には安楽死があるんでしょう。殺処分ゼロは、それを目指している人の前にこそ現れるのだと思います」

だから、奄美大島で行われる国内初の「殺処分を含めた猫の捕獲計画」には大反対なのだ。