重要なのは議決権比率だけではない

フジ・メディアHDと東北新社で対応が違ったことについて、武田総務大臣は1981年の内閣法制局の見解を根拠に説明を行っている。

政府は法運用の根拠として内閣法制局の見解を持ち出すことが多く、メディアも同局について「法の番人」など、国民に誤解を生じさせる報道を行っているが、内閣法制局はあくまで行政組織の一部であって司法ではない。

いくら行政組織として独立性が高いと説明したところで、日本が民主国家である以上、行政組織が法解釈に妥当性を与えることは原理的に不可能である。放送法が示す理念は、「報道を外国に支配されないようにする」ということであり、理由の如何を問わず、議決権が20%未満かどうか、あるいはいつの時点で発覚したのかという時系列の問題ではない。

同じ20%超えという違反行為があった場合でも、経営陣が意図的にそれを放置あるいは受け入れたケースと、計算ミスなどによって一時的に違反が発生したケースでは本質的な意味が異なる。

実は放送法には、外国人議決権比率が20%を超えた場合でも、会社側が該当する外国人株主の株主名簿への記載を拒否できる(つまり外国人株主の議決権行使を事実上、拒否できる)という規定もある。つまり会社側がその気になれば、20%未満の状態を維持するのは簡単なことなのだ。

要するにこの法律は、「会社側に外資を排除するという意思がある限り、放送事業者を外国人投資家が買収することはできない」という趣旨と判断してよい。そうなってくると、重要なのは会社側に意図的に外国人支配を受け入れる意思があったかどうかである。

東北新社の認定取り消しは妥当ではない

東北新社は、外資規制に抵触しているという状況を認識していなかったと説明しており、額面通りに受け取れば単純ミスの可能性が高い。また、東北新社側に積極的に外国人の支配を受け入れようとの意思があったとは到底、思えない。一連の放送法の趣旨を考えた場合、東北新社についてもフジと同様、厳重注意で済ませるのが妥当ではないだろうか。

ところが東北新社については厳しい対応が行われ、しかも同社と総務省との間では意見の食い違いまで生じている。同社は2017年に外資規制に抵触していることに気付き、幹部が総務省の担当者と会い、状況を報告したと説明しているが、当時の総務省担当者は「報告を受けた記憶はまったくない」と完全否定しているのだ。

もし東北新社の説明が正しければ、総務省は放送法違反の事実を知っていたことになる。

それでも同社が問答無用で認定を取り消されるというのであれば、まったく不可解なことであり、この対応を是とするならばフジ・メディアHDにも同じ対応を取らない限り、行政としての整合性が確保できなくなる。逆に東北新社が虚偽の説明をしているのであれば、公共の電波を利用する事業者として、到底、許されることではない。

多くの人は、すでに認識していると思うが、東北新社の認定取り消しには別の理由が存在している可能性が否定できない。別の目的を達成するために、当該問題とは直接関係ない法律を適用するというのは、本来あってはならないことであり、もしそれが事実であれば、法の恣意的な運用にあたる。