このジョークには元ネタがあります。それは「沈没しそうな客船から乗客を海に逃がす際、船長は各国の人々に何と言えば良いか」というもの。アメリカ人には「飛び込めば英雄です」、日本人には「みんな飛び込んでいますよ」というわけ。このネタがコロナ禍によって「変異」しました。

余談ですが、かつてこの「沈没ジョーク」を紹介した拙著の広告コピーが「みんな読んでいますよ」。出版社側のアイデアでしたが、なかなかシャレが効いていました。

マスク警察の登場…もはや笑い事ではなくなった

さて、そんな「集団主義」が特徴の一つとされる日本人。今回のコロナ禍では「同調圧力」という表現が話題になりました。「外出時にマスクをしていないと周囲の反応が怖い」と感じる人が少なくないという調査結果も報告されています。マスク未着用の人に対して過度に攻撃的な「マスク警察」なる人々の登場に至っては、もはや笑い事ではありません。

ただし本来、集団主義自体が悪いわけではないはずです。自分の身の回りに丁寧に気を配り、他者の迷惑にならないように留意し、自身の行動を律していくという行為であれば、それはむしろ「日本人の美徳」とも言えるでしょう。このような公共心こそが、ウイルスの感染拡大を抑制することにつながっているのではないでしょうか。

実際、マスク着用の動機について、「自分が感染したくない」という心理と同時に「他者を感染させたくない」という思いが日本人には強いと言われています。

個人主義の強いアメリカでは、マスクの使用を嫌がる傾向が根強く続いています。アメリカ国民によれば、「呼吸は神様から与えられた権利」とのこと。しかし、そのような理由で「マスクをしない」という選択をすることは、「公」よりも「個」の価値観を優先している証拠と言えるでしょう。無論、アメリカ人にとって「個の自由」は建国以来の重要な理念ですが、個人主義と利己主義の境界線というのは至って曖昧なものです。

マスクを着用してバスに乗る若い女性
写真=iStock.com/AnVr
※写真はイメージです

個人主義の強いアメリカ

米テレビ局FOXニュースの有名司会者が、新型コロナウイルスに対するアメリカ人と日本人の国民性を比較したツイートをしたところ、次のようなコメントが集まりました。

「我々アメリカ人は『俺たちはできる』という自信ゆえに、常識に従うことができない。日本人は風邪をひいた時、周囲を守るために何十年もマスクをしてきた」
「日本は『我々』という部分を意識する。だが、ほとんどのアメリカ人は違う。アメリカ人が心配するのは『私』。アメリカの利己的な部分が破滅の原因」

アメリカのマスク反対派の中には、「わざと穴を開けたマスクをして街を歩く」といった動画をSNSにアップする人まで登場。「風刺が効いている」「ユーモアがある」という意見があった反面、「くだらない」「レベルが低い」といった反応も多く寄せられました。