空軍ヘリも待機、クリスマス前のワクチン輸送作戦

順調にワクチン接種が始まった英国だが、2020年のクリスマス前にはあわやという事態が起こった。英国が注文した大量のファイザーワクチンが、トラックに積み込まれてベルギーから英国へと向かう途中、ピーコック教授が発見した英国型変異株を警戒したフランスが国境を閉鎖。輸送トラックは英仏海峡を渡る手前で立ち往生してしまった。

クリスマスを祝う食材や、ギフト品を英国へと運ぶ約3000台の長距離トラックが、フランスの港から高速道路までぎっしりと並び、ワクチン輸送車はそのど真ん中に挟まっている。ファイザーワクチンは工場を出たら10日以内に使用されなくてはならない。ワクチン接種プロジェクト特別チームのトッドさんは、36時間不眠不休で状況をモニターし、万が一の場合には空軍のヘリコプターを飛ばしてワクチンをトラックから運び出す準備を整えていたそうだ。

幸い政府間の交渉は2日間で成立し、英国への輸送は無事に完了した。オックスフォード大が開発したアストラゼネカ社のワクチンも2020年末に承認され、ワクチン開発を率いたギルバート教授とチーム一同は胸をなでおろした。チームにとっては、ラム教授が「シャンパンを開ける暇があったら眠りたい」と本音を漏らすほど、まったく休みなく働き続けた1年だった。

「私は“女性科学者”ではない」

新型コロナウイルスとの闘いで活躍する女性リーダーたちは、マスコミから注目を浴び続けた。オックスフォード大のグリーン教授が「私は有名な女性になるために科学を選んだんじゃない」と語っているように、どの科学者も「男女差別やフェミニズムについての質問ばかり聞かれてうんざり」と述べている。

ギルバート教授はすっかり「理系女性リーダーの星」となり、2020年夏には『ヴォーグ』誌(イギリス版)にも登場した。ジェンダー問題についてはほとんど語らないが、一度だけラジオで「私の肩書は『女性科学者』じゃなくて単に科学者。私たちは仕事を成し遂げるだけ」と、性別ばかり注目されるのを嘆いたことがある。しかし、そのコメント自体が名言として拡散され、女性科学者を称えるユネスコのSNSにも使われている。研究所で働く人によると、本人はこれを見て「やれやれ」というため息をついていたという。

ここで紹介した女性たちは、格別に優秀で統率力もあり、「普通の人のお手本にはならない」と言うことはできる。しかし、彼女たちが苦労してきた子育てとキャリアの両立や、女性に対する偏見などは、誰もが直面する普遍的な課題といえる。

乗り越えるうえでの一つのカギは、「チームワーク」にありそうだ。ギルバート教授は語る。「人生は計画通りには行かない。でも科学を続けながら子どもを持ちたいなら、できるだけ早くから周りにサポート網を作っておくことが何よりも重要」。自分一人で頑張るのではなく、周りのサポートを得ながらチームワークでことに当たる。この言葉はそのまま、女性リーダーたちが見せたコロナとの戦い方にも重なるのではないだろうか。

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