国境の消滅とテレマイグランツ(遠隔移民)

在宅勤務の広がりは、国内だけのことではない。地球的な広がりを持つ変化だ。

「リモート」とは、「物理的な距離に関係なく勤務できるようになった」ことを意味するからだ。その距離は、30kmであろうが、1万kmであろうが、同じことだ。

したがって、言葉の壁さえ克服できれば、日本に住んだままでアメリカの企業に勤務することが可能になった。

Twitter社は、新型コロナウイルス対策で始めた在宅勤務について、従業員が望めば永続的に続けられるようにすると発表した。日本を含む全世界の約5000人の従業員が対象だ。

また、企業は、全世界から優秀な人材を(本人はその国に住んだままで)リクルートできる。インド人がインドに住んだままで日本の企業に勤務することも可能になっている。リモートとは国境の消滅を意味するのだ。これがもたらす変化は、想像を絶するものだ。

リチャード・ボールドウィンは、『GLOBOTICS(グロボティクス)──グローバル化+ロボット化がもたらす大激変』(高遠裕子訳、日本経済新聞出版社、2019年)の中で、これを、「テレマイグランツ(遠隔移民)」と呼んでいる。

ノートパソコンでビデオ通話
写真=iStock.com/Chaay_Tee
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誰もが世界中の有能な人材と競争する

実は、こうした形態の勤務は、アメリカではすでに2000年頃から実際に行われているものだ。

とりわけ、インドとの間でこのような勤務形態が急拡大し、アメリカ企業のコールセンターは、事実上インドに移転した。また、データ処理や会計・法律の仕事についても、インドの専門家がインドに住んだままアメリカ企業で働く形態が一般化した。これがアメリカ経済の生産性を引き上げることに大きく貢献したのは、間違いない。

ビデオ会議の広がりによって、こうした勤務形態はこれから一層拡大するだろう。こうなると、誰もが全世界の有能な人材と競争することになる。

こうした時代に、生き残れるかどうかが問題だ。日本では言葉の壁があるため、これまでは、多くの人がこうした国際競争からは守られてきた。しかし、その状況が急速に変わりつつある。対応できなければ、日本が世界の潮流からさらに遅れてしまうことが危惧される。

しかし、逆に言えば、労働力人口が減少する日本において、経済を再活性化するための切り札ともなりうる。

要は、新しく可能となった働き方を、どのようにして活用するかということなのだ。