平安時代に成立した『源氏物語』はどんな物語なのか。『毒親の日本史』(新潮新書)を出した古典エッセイストの大塚ひかりさんは「親に利用されながらも一族繁栄をもたらした女性や、親に人生を狂わされた女性が描かれている。現代的な視点で見れば『源氏物語』は日本初の毒親物語だ」という――。

※本稿は、大塚ひかり『毒親の日本史』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

十二単を着ている女性
写真=iStock.com/alphabetMN
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光源氏は毒親だった

現代日本では、親が子に過剰な期待をかけて、勉強や習い事を強いる「教育虐待」が問題になっています。中でも、自分ができなかったことを子に押しつけるパターンがよく知られています。

実は、平安時代にも、親に期待をかけられる娘の苦悩を描いた物語が幾つもあるんです。当時は、母から娘へ家や土地が伝領され、子は母方で育つのが基本でしたので、息子より娘が大事にされる傾向にありました。まして、天皇家に娘を入内させ、生まれた皇子の後見役として繁栄する上流貴族であれば「美しい娘は親の面目を施す」「男の子は残念で、女の子は大切なもの」とまで言い、親は娘に期待をかけました。

それだけにその重圧は、時に娘たちを苦しめたのです。

そうした出来のいい娘による一族繁栄・零落貴族の逆転というお伽話的な結末からそれない、つまり娘の性や感情を犠牲にしてでも一族繁栄すれば良いという価値観が横行していたことを示す物語が多い中で、そこを突破した例がありました。

『源氏物語』です。

『源氏物語』には、あからさまな虐待は出てきません。が、現代的な観点で見ると、むしろリアルな毒親にあふれています。