「NTT法の存在」はNTTにとって大きな足かせ

NTTは、国が株式の3分の1以上を持つことがNTT法で規定されている。NTT法の範囲は首脳の人事権にまで及ぶ。さらに普及中の5Gや次期6Gの周波数割り当ての許認可権も同省が一手に握っている。NTTは総務省を批判できる立場にはない。批判できないとすれば、接待を重ねて懐柔するしかない。

澤田社長は「『One NTT』として世界で戦う」「強いNTTを復活させる」と公言している。だが、現実には新たな事業を展開するたびに総務省にお伺いを立てなければいけない、このNTT法の存在は、海外の巨大IT企業に対抗するうえで大きな足かせになる。

澤田氏は社長就任後、総務省との折衝を重ね、強いNTTの復活に向けた動きを加速させている。例えば、地方の過疎地にも都市部と同様の通信サービスを提供する「ユニバーサルサービス」の問題がある。

携帯電話の普及で固定電話の契約者数は下がり続けているが、NTT東西会社は事業継続を義務付けられている。年間数百億円の赤字が出ているため、NTTは過疎地の固定電話を無線などで代用できるよう同サービスの規制緩和を求めた。

このNTTの求めに応じて総務省は全国で提供すべき同サービスの範囲の見直しを開始、19年10月には義務緩和を認める報告書をまとめ、昨年6月にはNTT法が改正された。

料金引き下げと引き換えに、ドコモの完全子会社化を黙認か

さらに、大きな案件が「スマホ料金の値下げ」と「NTTドコモの買収」だ。

官房長官だった菅首相が18年8月の講演で「携帯料金は4割下げる余地があるのでは」と言及したのを機に、総務省は料金値下げの研究会を設置し、谷脇氏がその旗振り役になった。その結果、NTTドコモは料金引き下げを打ち出し、昨年末には従来水準より6割安い新プラン「アハモ」を発表した。

この時期にNTTはドコモの子会社化を水面下で進めた。昨年9月にNTTはドコモの完全子会社化を表明するが、『週刊文春』は谷脇審議官との接待があったのはその2カ月ほど前だったと報じている。

総務省は1985年のNTTの分割民営化以来、NTTの市場支配力の肥大化を抑えてきた。ドコモの完全子会社化は総務省の意向には沿わないが、「料金引き下げと引き換えに、ドコモの完全子会社化を総務省が黙認した」との見方が根強い。いずれにしろ、日本では行政に市場をコントロールする権限がある。

一方、米国の構造は異なる。