NASAの競争率は約1500倍だが…

これまで日本では11人の飛行士が誕生し、すでに4人が退任した。現役飛行士7人の平均年齢は51歳で、最も若い人は44歳。欧米やロシアより高齢化が進んでいる。

有人月探査は大プロジェクトであり、実現まで相当時間がかかる。10~50年先をも見越した長期事業だ。若い世代の飛行士を育成する必要がある。JAXAはこれまでの不定期な採用を改め、今後は「5年ごとに採用する」と説明する。

ただ問題がある。日本では飛行士への応募者が少ないという現実だ。ISSやゲートウェイで協力を進める米欧カナダと比べるとそれが顕著だ。

JAXAによると、NASAの2016年の募集では1万8000人を超える応募があり、競争率は約1500倍にのぼった。2008年のESA(欧州宇宙機関)は、8000人超で1700倍近かった。カナダ宇宙庁も、2016年の応募者は3700人超で1900倍に迫る競争率だった。一方、日本は前回の2008年時の応募者数は900人台で、競争率も約320倍。十分高いように見えるが、JAXAでは、もっとたくさん、幅広い人材を集めたいという。

フロリダ州ケープカナベラルにあるNASAケネディ宇宙センター
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条件は学歴、実務経験、泳力に体重制限…

応募数が少ないのは、採用が不定期なことに加え、いつ飛行できるか、生涯で何回飛行できるかなど、キャリアプランを見通せないことが影響していると思われる。過去の募集でも、応募者集めに苦労し、国の研究所、宇宙関連企業、大学や大学院などに働きかけた経緯がある。

JAXAは、競争率が低い理由は、応募条件のハードルの高さにあるとみる。前回(2008年)の条件を見ると、「日本国籍を有する」から始まり、「大学(自然科学系)卒業以上」「自然科学系分野における研究、設計、開発、製造、運用等に3年以上の実務経験」「訓練活動、幅広い分野の宇宙飛行活動等に円滑かつ柔軟に対応できる能力(科学知識、技術等)」「泳力」「英語能力」「身長158センチ以上190センチ以下」「体重50キロ~95キロ」「10年以上、JAXAに勤務可能」など、たくさんの項目が並ぶ。

「国際的チームの一員として従事できる心理的特性」「日本文化や国際社会・異文化への造詣」なども挙げられている。「宇宙飛行士=エリート」が求められていることがよく分かる。

宇宙飛行までに時間がかかることも壁になっている。選抜に1年かかり、その後2年の基礎訓練を行った上で飛行士と認定。打ち上げ予定が決まると、さらに1年~2年半ほどの訓練を経て、ようやく飛行する。予定が決まらないと、待ち時間はさらに長くなり、維持・向上訓練を続けることになる。