2021年初頭からユーザーが急増している音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」。日本では芸能人のクラブハウス離れが話題になったが、アメリカではすでに主要SNSの一角になりつつあるという。その理由を、NY在住ジャーナリストのシェリーめぐみさんが解説する――。

ミシェル・オバマやビル・ゲイツなどのセレブが参入

ある部屋ではネットフリックスの創始者などを囲んで、ビジネスアイデアのプレゼンが行われている。別の部屋ではビットコインなど暗号通貨の運用アドバイス。アジア系アメリカ人のハッピーアワー(飲み会)が開かれたと思えば、次の部屋ではテキサスの災害支援のためのチャリティコンサートが、インディーズアーティストを集めて進行中だ。

テキサス州災害支援のチャリティーコンサート(クラブハウスのアイコン・Boanmiも参加している)
テキサス州災害支援のチャリティーコンサート(クラブハウスのアイコン・Boanmiも参加している)=筆者提供

まるで巨大コンベンションのパネルディスカッションルームのようだが、これらのトークは同時に行われ、ミシェル・オバマやビル・ゲイツ、ジョン・メイヤー、スティーブ・アオキ、リンジー・ローハンなどのセレブがいきなり部屋に現れ、おしゃべりを始めるサプライズもたびたび発生する。

これが今、アメリカのクラブハウスで起きている出来事だ。廊下(ホールウェイ)と呼ばれるメインページには、インフルエンサー、インベスター、マーケティングのプロ、ジャーナリスト、スポーツファンなどあらゆるタイプの人々が右往左往しているが、時々思いもよらない名前が突然出現するのはアメリカならではと言える。

テスラCEOのイーロン・マスクと株運用アプリ・ロビンフッドCEOブラッド・テネブのトークが突然始まったのは1月下旬のことだ。ちょうどゲームストップ社の株が乱高下した問題でロビンフッドが対応に追われている真っ最中だったこともあり、6000人の収容キャパはあっという間にオーバーし、サイトがクラッシュしたことがニュースになった。

これがアメリカの一般人にクラブハウスが知れわたった瞬間だった。

「ライオン・キング」の音声上演が大きな話題に

iPhoneアプリのみ、そして完全招待制というFOMO(Fear of Missing Out=人より遅れるという恐れ)心理をくすぐるシステムで、オークションサイトに招待枠が売り出されるほどの熱狂を呼んだのは日本も同じだろう。クラブハウスがスタートしたのは2020年始め、創始者のポール・デイビソンによればポッドキャストのアプリに、リスナーが参加できる機能を加えてみようという意図があったという。

それが徐々に一般人にも注目されるようになった理由は、前述したセレブリティーの参入と、エンタメ性が加わり始めたことだ。

中でもクリエイティブな使い方として話題を集めたのは、ミュージカル「ライオン・キング」と「ドリームガールズ」の音声上演だった。どちらもアフリカンアメリカンのクリエイターが、なかなか業界に参入できない若い才能を育てるために始め、出演者やスタッフのオーディションにクラブハウスを活用。ライオン・キングは昨年12月、ドリームガールズは2月にライブ上演され、大きな話題になった。