「給与が少ない割に、居心地のいい職場」が悪影響

こうした待遇では、近くに頼れる実家が欠かせません。若いうちはいいのですが、結婚や出産などライフステージが変われば転職せざるをえなくなる。

一方で、水戸地域でホーリーホックを知らない人はいません。名刺一枚で、地元の名だたる有力者に会えることも可能なんです。給与が少ない割に、“ステータス”があるんです。いえ、ステータスがあると勘違いしてしまう者が少なくない。頼れる実家があって、少ない給与でもやれる人なら、居心地はいい環境です。厳しい言い方になりますが現状に満足し、成長意欲に欠けるスタッフも少なくありませんでした。

Jクラブは「地域密着」を理念にしたプロスポーツチームでしょう。クラブは、地域の憧れの存在であるべきです。そして、スタッフも憧れに見合う仕事をして、相応の待遇を得るべきです。

2020年10月4日、岡山戦での水戸ホーリーホックサポーター。
写真=MITOHOLLYHOCK
2020年10月4日、岡山戦での水戸ホーリーホックサポーター。

クラブ発展のためには、フロントを充実させる必要がある。そう考えて、2019年4月に私が非常勤の取締役に着任してから、スタッフを13名から24名に増やしました。ただし、社員はまだ増やせないので、足りない分は業務委託契約で雇用しました。

予算は22クラブ中20位で、J2クラブの平均の半額

——経営状況がそれほど厳しいのですか?

ホーリーホックがJリーグに参入した2000年以降、総売上は4億円から5億円で推移していましたが、私が着任した2019年度は7億5000万円にまで伸びました。

ただし、J2リーグ22クラブの平均は約15億4000万円(2019年度)。2020年シーズンのホーリーホックの予算は、22クラブ中20位で、J2クラブの平均の半額に過ぎません。ちなみに、J1リーグ18クラブの平均は49億8000万円です。

同じ常磐線沿線の柏レイソルは、われわれの10倍以上の選手人件費を使っています。対戦すれば、我々のディフェンダーは何十倍の年俸のブラジル人フォワードを止めなければならない。冷静に状況を見れば10回試合をすれば、2~3割の勝率が妥当ではないでしょうか。

予算の少ないチームが強豪から金星をあげる。スポーツならではのロマンですが、現実的に勝率を上げ、勝ち点を積み重ねるには実績のある選手を獲得し、才能ある若手を育成しなければならない。選手にしてもフロントにしてもアカデミーにしても、いい人材を集めるにはまず売上を伸ばし、経営規模を大きくしていくしかないと思い知りました。