「ぜひ社外取締役という立場で参画してもらえないか」

交渉そっちのけで、水戸の飲食店や学校などの話題で盛り上がっていると、西村GMから突然こう言われました。

「いま、クラブの経営改革を進めていて、人材を探しています。ぜひ社外取締役という立場で参画してもらえないか」

「えっ」と絶句しました。サッカー界で仕事してきましたが、まさかクラブの経営にかかわるとは想像もしていませんでしたから。

西村GMは、地方クラブの社長は地元の人間がやるべきだと思っているようでした。実は、私自身も同じ考えを持っていました。何よりも、私の心の片隅には、いつか地元に恩返しをしたいという気持ちがありました。

こうして2019年4月に非常勤の取締役となったのです。当初は苦労しました。多くの社員は「東京からなにしにきたんだ」と反発して相手にしてくれない。社員たちには「どんな改革が行われるのか」という不安があったのでしょう。無理もありません。

茨城県全体の平均より「給与が低い」という大問題

信頼されるには、目に見える実績を上げるしかない。私はスポンサーを探すため、母校である私立茨城高校時代の同級生を訪ね歩きました。幸い地元企業の2代目、3代目として活躍する同級生が多いんです。スポンサーが徐々に増えるにつれ、社員たちの態度は変わりました。この人は、ただの落下傘経営者じゃない。本気でやる気なんだな、と。

その後、常勤取締役、副社長を経て、コロナ禍の2020年7月に社長に就任しました。

——クラブ経営の現場に立ってみて、どうでしたか。

十数年、メディアの人間としてサッカーにかかわってきましたが、経営にたずさわるようになり、私が見てきた風景は日本サッカーの一側面にすぎないと実感しました。壁一枚隔てたクラブ経営の現場にはまったく違う世界が広がっていたのです。

——具体的にどんな課題が見えましたか。

トップチームを強化する以前の問題として、まずはきちんとした企業体として成立させる必要性を感じました。

ひとつは社員の待遇の悪さです。たとえば、求人募集を行うと履歴書が山ほど届く。ぜひ採用したいと感じる人材も多い。しかし実際の給与を伝えると辞退されてしまうのです。ホーリーホックの給与は茨城県全体の平均より低い。たしかなスキルを持つ人材が、Iターンのような形で、水戸で暮らしながら働くのが難しいという現状がありました。