空前の金余りを背景にSPACに投資マネーが流入

活況を呈する米株式市場で上場が相次いでいるSPAC(Special Purpose Acquisition Company=特別買収目的会社)もその一つだ。日本企業でもソフトバンクグループ(SBG)が1月8日、初めてニューヨーク証券取引所(ナスダック)にSPACをIPO(新規株式公開)した。投資家から5億~6億ドルを調達する計画で、SPACを通じて企業買収に充てられる。

SPACは自ら事業を営まず、未公開会社や他社の事業を買収することを目的に株式を公開する会社で、事業実態がないことから「空箱」と称される。買収先を見つけるとその会社と合併し、事業を営む買収先が存続会社となる。株式公開時にはどの会社に投資するかは白紙で、投資家はSPACの運営者の目利き力を見込んで投資する仕組みだ。

このことからSPACは白紙の小切手を指すブランク・チェック・カンパニーとも呼ばれる。一種のM&Aのプラットフォーム(受け皿ファンド)と言っていい。もちろんそこには「裏口上場」という批判もあるが、これは次項で触れよう。

「SPACはいまや米国市場でIPOの主流になっている手法だ。空前の金余りを背景にSPACに投資マネーが流れ込んでいる。上場するSPACは400社近くあり、1月だけでも91社が上場し、新規株式公開の約6割を占めた」(大手証券幹部)とされる。

著名なアクティビスト(物言う株主)によるSPAC設立も相次いでいる。

SPACが「裏口上場」と批判される理由

SBGがSPACのIPOを選択した理由には、高いリターンを望む投資家のニーズがあるというだけでなく、SPACの買収対象になりうるユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未公開企業)の一部などからSPACを利用したいという要望が寄せられたことがある。

SPACと合併して存続会社になれば、煩雑な上場手続きが不要で、上場までの時間を短縮できるためだ。SPACが「裏口上場」と批判される理由もここにある。このため日本でも2008年にSPACの上場解禁が検討されたが、課題が多く見送られた経緯がある。

米株式市場を席巻するSPACだが、危うさも伴う。

新規上場し多額の資金を調達したものの買収先を見つけることができずにいるSPACは数多い。2年以内に買収先を見つけることができなければ設立者の報酬はゼロとなる。また、買収を急ぐあまり、買収後に業績が低迷するケースも少なくない。