キャリアの空白を避けたかったBさんの失敗

Aさんは、前の職場で有給休暇を消化し、失業保険をもらいながら体をしっかり休めました。新たな職場で、給料は下がったものの、「無理はしない」と自分に言い聞かせながら、仕事を覚えているところです。自分は、ボロボロになる前にあの職場から離脱できてよかった、と思っています。前の職場で苦しみながらも数をこなした企画書作りを褒められたりすると、「あの苦労は、ムダなわけでもなかったな」と穏やかに振り返ることができています。

一方、Bさんは、やめたい、と思ったその日から「やめたら、なるべく日を置かずに新たな職場に行く」と必死に再就職先を探しました。キャリアの空白を避けたかったのです。実際に、退職した翌週から張り切って新しい職場に勤め始めました。

しかし、実は今でも対人恐怖を引きずっています。上司と接するときにも、何か自分の悪い部分が指摘されるのではないか、とビクビクしています。作った書類を何度確認してもミスが残っていそうで不安になる。そしていまだに、給料が下がったことを悔やみ、「過去を引きずる自分は負け犬だ」と自責感を強めています。

怪物
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疲労をケアできていなかったBさん

同じようにストレスフルな経験をし、やめる決心をしたAさんとBさん。今の状況がこれほどまでに違うのは、どうしてでしょう。

Aさんはもともとの性格がポジティブで、Bさんはネガティブだから?

いいえ、そうではなく、たとえ同じ人でも、「やめる・やめない」で悩んだときの行動の仕方、とらえ方次第で、「やめる」を「殻を破る成長体験」(これをレジリエンスと呼びます)にできるか、「挫折」にしてしまうかという、目に見えない分かれ道があるのです。

ここに関わってくるのが、先ほどお話しした「エネルギーの低下」「自信の低下」「不安の拡大」という3つの要素と、「物語作り」です。

夜も眠れなくなるほど悩み、エネルギーが低下している状況であったのに、Bさんはすぐに再就職先で働きはじめ、疲労(エネルギーの損失)を充分にケアできていませんでした。

一方、Aさんは、自分が疲れていることを自覚し、休むことを重視しました。再就職のスタート時に、体を休めて、新たな環境にゆっくりとなじんでいこうと決めていたので、無理なく新たな物語を作り、復活することができたのです。

Bさんが、休まず日を置かずに働きたかったのは、自信の低下によって不安が強くなっていたからです。再就職先が決まらない状態のまま宙ぶらりんでいるのは、プライドも許さなかった。そして、失った自信をすぐに取り戻したかった。

新しい職場で心機一転、一発逆転を狙ったものの、エネルギーが不足した状態ですから、意欲が上がらず、思考もネガティブなままで、新たな物語も作りにくい。うつ状態を引きずった状態ではパフォーマンスも発揮しにくく、「人は怖いものだ」「自分は弱い負け犬なんだ」という、うつ的な思考でとらえてしまうのです。