不都合な真実でもリーダーは受け止めよ

今回の大統領選挙の際には、共和党側の意見も知りたいので、フォックス・ニュースを見てみようかと思って、チャンネルを回してみると、日本の戦後リベラルに育った私には、とても見ていられない。それでなかなかフォックスの視聴者になれないのである。これは後述の「認知的不協和」が、他人事ではなく自分に起こっていると解釈できよう。

トランプ氏が他人を攻撃しまくった心理学的理由

人間は真理が1つだけと考え、正しい情報のもとで、経済活動、社会活動が行われると考えがちである。しかし、情報を受け取る人が外界を認識していくプロセスは単純ではなく、それには関連する様々な科学分野において多様な考え方がある。

まず哲学である精神現象学の立場からは、人は様々な情報を受け取るが、決してそれを生のままでは受け取らない。情報の一部を重要なものとして抽出し、ほかの部分は重要ではないとして括弧に入れてしまって棚上げにする。

次に、統計学のベイズ決定理論によると、人々は事象がおおよそどういう頻度で起こるかについての主観的予測=事前確率を持っている。外部を観察していろいろなデータが入ってくると、それを使って認識を改訂していく。事前確率が事後確率に代わるのである。いずれの見方でも、各人があらかじめ持っている、いわば先入観が予測形成に役割を果たすのである。

それをより端的に示すのは、心理学でいう「認知的不協和」の現象である。人は自分の望みの生活が実現できるような調和的な世界像を抱いていたい。そこに、自分の認知と矛盾する情報が入ってくると、心情、思考、価値観、そして行動の間に摩擦が生ずる。これをアメリカの心理学者レオン・フェスティンガー教授は「認知的不協和」と名付けた(ちなみに、これを経済学に取り入れたのは、イエレン米次期財務長官の夫君であるジョージ・アカロフ氏である)。

たとえばトランプ氏は、自分は有権者に人気があり大統領選で再選されると思っていた。したがって、選挙で票が足りないという情報は、彼の内なる世界に不協和音を鳴らす。このような心情、思考、価値観、そして行動の間に矛盾が生ずると、その人の中に心理的葛藤が生まれる。

人は、この不協和な状態は不愉快なので、通常は外界に対する認知を変えようとする。それが通常の人の学習過程にほかならない。しかしトランプ氏の場合は、情報を消化せずに認知を変えようとはしない。むしろ新たな理屈を考え出して、自分の当初抱いていた信条、認識を保ち続けようとする。こうして自分にとって不都合な情報に、「フェイクニュース」のラベルを貼るのである。

こう考えると、今回の選挙には単に経済政策や社会政策の争いではなく、世界をどう認識するかの争いがかかっていた。検証された事実を認めるような政権が生まれたことを喜びたい。

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