アメリカに住んでまず気づくのは、日本国民とアメリカ国民が、かなり違った対トランプ観を持っていることである。どちらかというと、日本人のほうがトランプ氏びいきが多いように思う。

日本人がトランプ政権に好意的な理由もわかる。両国国技館におけるトランプ氏の礼儀正しいふるまいなども共感を呼んだらしい。トランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長が握手をわしたのも、米朝の関係が実質的に良くなるかは不明であるが、日本人には安心感を与えているのであろう。しかし、よく考えてみれば、アメリカ本土に届くミサイルの開発さえ止めれば、日本に届くミサイルの保有は認めてもよいといった節も見られ、実は日本にとっては大変怖い話なのである。

トランプ政権時代の共和党の唯一の経済政策ともいえる金持ち層を中心にした大規模減税は、一応効果を発揮していたように思う。それが、19年末、コロナ以前のニューヨークの街の好景気の実感であった。したがって日本でも株式投資家にはトランプ氏のファンが多い。

日米で意見が違う一番の理由

しかし、日米で意見が違う一番の理由は、両国民の判断の根拠となるニュースが違っていることである。そして、日本のジャーナリズムは、良くも悪くもNHKの報道に見るように、均質で統一が取れているが、アメリカのメディアの言論の分裂ぶりは凄まじい。アメリカ国民の多岐なグループの多様な思考方式の反映だともいえるが、むしろ実態は、ジャーナリズムのほうがグループ間の意識の分裂を助長しているとさえ感じられる。

アメリカのメディアの一方は、既存ジャーナリズムである。CBS、NBC、ABC等の民間テレビ局、公共放送のPBS、それにニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト等のリベラルな新聞等からなる。我々が大学で教わったのと同じような常識と倫理観で働きかける。私も既存ジャーナリズムには素直についていける。メディアは自分たちが正義の味方であるというように視聴者や読者に語りかける。所得分配はより公平に、男女の格差は解消し、人種差別のないような社会が望ましく、また実際に社会はそのように向かっている前提でニュースが発信されている。

それに対抗するのはフォックス・ニュースで、それは概してトランプ大統領の意見やそれに近い共和党の宣伝機関の役を果たしているように見え、既存の報道機関からは右翼のメディアと呼ばれている。

トランプ氏は自分に都合の悪いこと、自分の嫌いなことは嘘、特にコロナ禍の存在そのものを否定しようとする態度をとった。徹底的な科学無視で、「フェイク(嘘の)ニュース」と言って切り捨てる。